早産は新生児が在胎37週未満で生まれることを指し、2014年における世界の早産件数は推定1,484万件、中国では全出産数の6.9%に当たる117万件に上るとされる。中国・Sun Yat-sen UniversityのMeng Ren氏らは、同国の単胎児を対象に気温が早産に及ぼす影響を前向きに検証する多施設コホート研究を実施し、Lancet Regional Health(2022年5月31日オンライン版)に発表。妊娠期間中に酷暑および極寒にさらされると、早産リスクが高まると報告した。
対象は中国の単胎新生児21万798例
今回の研究は、中国の8地域の16郡において、2014~18年に生まれた単胎の新生児21万798例を対象に実施。母体の情報として、妊娠期における喫煙や飲酒などの早産リスクの可能性がある生活習慣、居住地、年齢、教育レベル、妊娠回数、最後の月経などを看護師が対面式のインタビューにより収集した。
早産は在胎37週未満での出産と定義し、超音波検査(全体の96%)または最後の月経(同4%)に基づいて判断した。また、選択的早産または自然早産に分類し、さらに34週未満、34~35週、35~36週、36~37週の4群に分類し、酷暑や極寒が早産に及ぼす影響を検証した。
気温は、同国内の680地点の観測所における1日の平均気温(Tmean)、最高気温(Tmax)、最低気温(Tmin)について、2014~18年のデータを収集。逆距離加重法を用いて各母体の居住地における妊娠期の6つの期間(第1トリメスター、第2トリメスター、第3トリメスター、全妊娠期間、出産前1週間、出産前4週間)の気温および相対湿度を推定した。極寒はTmeanの5パーセンタイル未満、酷暑は同95パーセンタイル超、極寒と酷暑の間を通常気温とした。
早産リスクは、酷暑が1.6倍、極寒が2.2倍
対象のうち、4.07%(8,587例)が早産に該当し、選択的早産は1.92%(4,050例)、自然早産は2.15%(4,537例)だった。 母体の主な背景を見ると、自然早産と比べ、選択的早産では高齢で(33.7歳 vs. 36.4歳)、妊娠前の平均BMIが高かった(21.7 vs. 23.2)他、高校卒業以上の高学歴割合も高かった。
解析の結果、全妊娠期間を通して酷暑にさらされていた集団で最も早産リスクが高かった。通常気温に対するハザード比(HR)を見ると、早産1.63(95%CI 1.19~2.22)、選択的早産1.84(同1.29~2.61)、自然早産1.50(同1.11~2.02)で、選択的早産かつ第3トリメスターでのみ酷暑にさらされた集団でも1.26(95%CI 1.01~1.56)とリスクが高かった。
同様に、極寒にさらされた集団においても早産リスクが高かった。最も大きく影響を受けたのは全妊娠期間を通して極寒にさらされていた集団で、通常気温に対するHRは早産2.16(95%CI 1.93~2.41)、選択的早産2.18(同1.83~2.60)、自然早産2.15(同1.92~2.41)だった。その他、選択的早産では、第2トリメスターでのみ(HR 1.26、95%CI 1.11~1.43)および出産前4週間のみ(同1.39、1.02~1.89)極寒にさらされた集団でもリスクが高かった。
在胎34週未満例では酷暑が3.3倍、極寒が7倍のリスク
酷暑および極寒による早産のリスクは、おおむね胎児の在胎期間が短いと高い傾向にあった。自然早産において、34週未満では酷暑でHR 3.26(95%CI 2.15~4.94)、極寒で同6.92(5.18~9.24)だった。選択的早産においては、極寒では34週未満で最もリスクが高く(HR 7.76、95%CI 5.34~11.28)、酷暑では34~35週で最もリスクが高かった(同3.73、2.28~6.11)。
これらのリスクの修正しうる因子について検討したところ、国民1人当たりのGDPの増加は酷暑による自然早産のリスク(β=-0.16、95%CI -0.30~-0.01)を、1,000人当たりのベッド数の増加は極寒による選択的早産のリスク(同-0.25、-0.50~-0.01)をそれぞれ低下させる可能性が示された。
Ren氏は「今回の結果から、妊娠期間中に酷暑および極寒にさらされると早産のリスクが高まり、極寒については妊娠初期、後期においてのみさらされてもリスクが高まる可能性が示唆された。異常な気温が健康に与える影響を理解し、新生児のような気候変動の影響を受けやすい脆弱な人々を守る上で重要な発見かもしれない」と述べている。
(編集部)