武田薬品工業は6月9日、新たに開発したデング熱ワクチン候補(TAK-003※)の有効性および安全性の評価を目的とするグローバル第Ⅲ相試験Tetravalent Immunization against Dengue Efficacy Study(TIDES)を完了したと報告。TAK-003接種後の4年半(54カ月)で接種前の血清反応を問わずデングウイルス感染症(VCD)に関連する入院を84%、VCD発症を61%抑制し、安全性についても重要なリスクが認められなかったとの結果を第8回北欧渡航医学会(NECTM、6月8~10日)で発表した(関連記事「2014年,約70年ぶりのデング熱国内流行」)。
免疫獲得後も異なる血清型ウイルスの感染で重症化リスク増
デング熱は主にアジア、アフリカ、ラテンアメリカなどの熱帯・亜熱帯地域で流行し、近年では欧米の一部にも及ぶ蚊媒介感染症である。あらゆる年齢層で感染する可能性があり、流行地域の小児において重篤な疾患を引き起こす主因となっている。世界人口の約半数の39億7,000万人がその脅威にさらされ、毎年約3億9,000万人が感染し、約2万人が亡くなっている。特に2019年の流行は大規模なもので、世界保健機関(WHO)は「2019年のグローバルヘルスに対する10の脅威」の1つに挙げている。
デング熱は主にネッタイシマカ、一部はヒトスジシマカによって媒介される。感染を引き起こすウイルスには4種の血清型(DEN-1、DEN-2、DEN-3、DEN-4)があり、相互に関連している。血清型別の羅患率は国・地域、季節によって異なり、時間の経過とともに変化する。ある血清型ウイルスに感染してから回復後、その血清に対する免疫が得られ生涯にわたって続く。しかし、他の血清型への交叉免疫は部分的かつ一時的であり、異なる血清型ウイルスに感染すると重症化リスクが高まる。
TAK-003は4種の血清型を含む遺伝子組み換え4価弱毒生ワクチンの2型デングウイルスをベースに構築されている。これまで小児・若年層を対象としたTIDESの第Ⅱ相試験では接種前の血清反応にかかわらず、2回接種により全ての血清型に免疫応答を誘導し、効果は接種後48カ月間持続。安全性においても良好な忍容性が示されている。
第Ⅲ相TIDES試験はラテンアメリカ(ブラジル、コロンビア、パナマ、ドミニカ共和国、ニカラグア)およびアジア(フィリピン、タイ、スリランカ)で実施。小児・若年(4~16歳)の健常者約2万例をTAK-003群(0.5mL)とプラセボ群2:1でランダムに割り付け、3カ月間隔で2回皮下投与した。
試験は5つのパートで構成され、主要評価項目の解析ではTAK-003の①2回目接種後12カ月のワクチン有効性(VE)および安全性、②6カ月間の追跡調査を追加と副次評価項目のデング熱による入院へのVE、デングウイルスの血清型別VE、ワクチン接種前血清状態別VEおよび症状の重症度別VE―などを評価した。
安全性と忍容性も良好
解析の結果、TAK-003はVCDによる入院に対するVEは全体で84.1%(95%CI 77.8~88.6)、ワクチン接種前の血清反応陽性例では85.9%(同78.7~90.7)、陰性例では79.3%(同63.5~88.2)。また、ウイルス学的に確認されたVCDに対するVEはそれぞれ61.2%(同56.0、65.8)、64.2%(同58.4~69.2)、53.5%(同41.6~62.9)だった。
血清型により有効性は異なるものの既報との一貫性が示され、忍容性は良好であり重要な安全性のリスクは認められなかった。54カ月の探索的解析においてワクチン関連疾患増強のエビデンスは見られなかった。
以上を踏まえ、同社は「一連のTIDES試験データを補完し、TAK-003のVCDに対する有効性が示された。また12カ月間の追跡調査においてVCDに関連する入院を84%、VCD発症を61%抑制し、安全性と忍容性も良好だった。有効な対策が乏しいデング熱に対し、TAK-003は有用な選択肢の1つになり得る」と結論。「全ての被験者からワクチン接種前の血液サンプルを採取しており、接種前の血清反応(デングウイルス感染歴の有無)別の評価が可能であることから、ブースター接種の有効性と安全性を評価するためTIDES試験は継続していく」と付言している。
(小野寺尊允)