新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として、声出し応援が禁止されていたサッカーJリーグの公式戦において、6月11~12日に声出し応援の段階的導入が行われた。それに先立ち、産業技術総合研究所(以下、産総研)などの研究グループは、試合開催条件別に声出し応援やマスク着用によるCOVID-19感染対策効果を評価した。「収容人数100%かつ声出し応援なし」という条件に対する相対感染リスクは、声出し応援の段階的導入試合の開催条件となる収容率25%、50%では、0.46~0.48と低下することが示されたと、第56回日本野球機構・Jリーグ新型コロナウイルス対策連絡会議で報告した。
感染対策のリスク軽減効果を評価
2021年12月1日以降に開催されるイベントは、声出し応援をしない、感染防止安全計画を策定することなどを条件に、収容率100%での開催が可能となった。また不織布マスクの着用にょり、大声を発しても飛沫(直径3.18um以上が対象)の拡散を平均95%抑制できることがこれまでの研究結果からは示されている。
そこで研究グループは、スタジアムでの声出し応援時のCOVID-19感染リスクについて、マスクの着用および種類、座席間隔の確保、観客の人数制限などの条件別に対策効果を評価した。評価は、Murakamiらによるマスギャザリングにおけるリスク評価モデル(Microb Risk Anal 2021; 19: 100162)およびそれを改良したYasutakaによるモデル(Microb Risk Anal 2022; 21: 100215)を基に、声出し応援を考慮し改良したモデルで行った。概要を下に示す。
①環境中のウイルス動態と曝露経路をモデル化し、飛沫の直接曝露や直接吸入、拡散したウイルスの吸引、表面接触の曝露経路からの感染リスクを評価、②座席間隔の確保、マスク着用、手洗いの効果を評価、③スタジアムをコンコース、声出し応援席、声なし応援席、トイレ、飲食店に分けて感染リスクを解析、④ウイルス量はデルタ株を想定、⑤声出し応援時(全体の12.5%、50%、100%を想定)は常に前方を向いて大声で応援すると仮定。前方の観客の毛髪における大粒径飛沫付着量、一定範囲の観客の大粒径・小粒径飛沫の吸引量を評価、⑥モンテカルロシュミレーションで1条件につき1万回実施し、感染リスクの平均値を解析
マスク着用率と不織布マスクがリスク上昇抑制の鍵
解析の結果、100%の収容人数で声出し応援なし・対策ありの条件(以下、基本ケース①)の新規感染者数に対する、各ケースの相対的なスタジアム全体の新規感染者の相対感染リスクは以下のようになった(図)
図. 開催条件別に見た感染リスク
(産業技術総合研究所プレスリリースより)
まずマスク着用率別に見ると、声出し応援人数が5,000人(収容人数の12.5%)で不織布マスクの着用率が95%の場合、基本ケースに対するスタジアム全体の相対感染リスクは1.02とわずかに上昇。一方、同人数でマスクの着用率が90%、80%、50%と低下した場合、リスクはそれぞれ1.26、1.74、2.96に増大し、マスク着用の重要性があらためて確認された。
次にマスクの種類で比較すると、同人数でマスク着用率95%かつウレタンマスク率が50%の場合(ケース⑥)、相対感染リスクは1.54と上昇し、不織布マスク着用の重要性も示された。また、声出し応援人数を2万人(収容人数の50%)、4万人(同100%)と増やした場合、不織布マスクが95%で相対感染リスクはそれぞれ1.08、1.19になると推定された。
市松模様、格子模様で感染リスクを低い状態に
さらに、収容率と座席配置の影響について解析した。その結果、観客人数の上限を50%とし、声出し席の配置を前後左右1席ずつ空ける市松模様(収容率50%)、前後の列と左右の席を1ずつ空ける格子模様(収容率25%)にすることで、相対感染リスクはそれぞれ0.48、0.46と低下することが確認された。この配置は応援段階的導入試合の開催条件でもあり、産能研は「感染リスクは十分低い状態」と評価した。
飛沫削減率低下で感染リスク増
一方、声出し応援時には大声を出すことで飛沫量が増加し、不快な際にマスクを外すなどの行為 により感染抑制効果が低減する可能性もある。そこで、不織布マスク率100%、マスク着用率95%、声出し応援時間80分、声出し応援時大粒子飛沫量10倍(通常会話比)の条件下で、適切な着用による飛沫削減率(大粒子95%削減、小粒子70%削減)以下に低下した場合の相対感染リスクについても解析した。
その結果、声出し応援なしの基本ケースに対し、スタジアム全体の相対感染リスクは声出し5,000人で2~10%、同4万人で19~102%上昇することが判明。リスク低減に向けて、適切な不織布マスクの着用の遵守といった基本的な対策が重要であることが、あらためて示された。
研究グループは「今後は応援段階的導入試合での現地調査結果も踏まえ、実際の試合における観客の行動などのパラメーターを収集し、さらに詳細な評価を進めていきたい」と展望している。