心代謝性疾患の多疾病罹患(cardiometabolic multimorbidity)とは、糖尿病、脳卒中、心筋梗塞のうち2つ以上の罹患歴を有する状態を指し、有病率が急速に上昇している。英・University of OxfordのXin Y. Tai氏らは、UK Biobankコホートから抽出した60歳以上の20万人超を前向きに約12年追跡。「心代謝性疾患の多疾病罹患を有する集団の認知症発症リスクは、遺伝的に認知症リスクが高い集団の3倍である」との結果をLancet Healthy Longev2022; 3: e428-e436)に発表した。既知の遺伝的リスクの有無にかかわらず、認知症リスクを低減する上で心代謝性疾患の多疾病罹患を標的とすることの重要性を指摘している。

20万人超を対象に、心代謝性疾患の罹患歴と認知症との関連を検討

 個々の心代謝性疾患(脳卒中、糖尿病、心筋梗塞)および遺伝的要因は、認知症リスクの上昇に関連している。しかし、心代謝性疾患の多疾病罹患と認知症との関連は不明である。この研究では遺伝的リスクにかかわらず心代謝性疾患の多疾病罹患が認知症リスクを上昇させるかどうか、また関連する脳の構造的変化について検討した。

 Tai氏らはUK Biobankの前向きコホート研究のデータから、ベースライン評価時(2006~10年)に認知症がない60歳以上の白人20万3,038例(平均年齢64.9歳、女性52.8%)を抽出し、健康状態および遺伝子データを調査し、イングランドとスコットランドの登録者では2021年3月末まで、ウェールズの登録者では2018年2月末まで追跡。また、対象のうち2014~20年に脳MRI検査を受けた1万2,236例の画像を解析した。

 個々の参加者について、脳卒中、糖尿病、心筋梗塞の3疾患で構成される心代謝性疾患の多疾病罹患指数(CM指数、各疾患1点)、および欧州系のゲノムワイド関連解析(GWAS)結果に基づきApoE領域を含む多遺伝子リスクスコア(低、中間、高リスク群)を算出した。主要評価項目は、原因を問わない認知症および脳の構造変化とした。

3疾患の罹患歴で認知症リスク5倍

 ベースライン時に、20万3,038例中2万636例(10.2%)が糖尿病、脳卒中、心筋梗塞のいずれか1疾患のみ(CM指数1)、2,287例(1.1%)が2疾患(同指数2)、138例(0.1%)が3疾患全て(同指数3)の既往歴があった。

 235万4,857人・年(中央値12.0年、四分位範囲11.2~12.7年)の追跡期間中に4,766例(ベースライン時の年齢中央値66.6歳、女性46.7%)が認知症を発症した。19万8,272例(同64.9歳、52.8%)は認知症を発症しなかった。

 認知症発症リスクは、CM指数の増加とともに上昇した。対照群(3疾患の既往歴なし、CM指数0)に対する認知症の調整ハザード比(HR)は、CM指数1群で1.94(95%CI 1.80~2.08、P<0.0001)、CM指数2群で3.46(同2.97~4.04、P<0.0001)、CM指数3群で5.55(同3.39~9.08、P<0.0001)。遺伝的リスク別では、低リスクに対する認知症発症の調整HRは、中等度リスクで1.27(95%CI 1.17~1.38、P<0.0001)、高リスクで1.68(同1.53~1.84、P<0.0001)だった。今回のデータから、心代謝性疾患を3疾患合併した例では認知症の遺伝的高リスク例に比べ、認知症発症リスクがおよそ3倍に上ることが判明した。

 CM指数と遺伝的リスクを組み合わせて認知症リスクを検討したところ、遺伝的低リスクでMC指数0の群(認知症発症1.5%:3万6,006例中556例)に対し、遺伝的高リスクでMC指数2以上の群(同9.3%:503例中47例)では認知症発症リスクが6倍近かった(HR 5.74、95%CI 4.26~7.74)。ただし、心代謝性疾患の多疾病罹患と多遺伝子リスクとの間に有意な交互作用は認められなかった(交互作用のP=0.18)。

心代謝危険因子への介入の重要性示唆

 心代謝性疾患の多疾病罹患はまた、海馬の体積(F2, 12 110=10.70、P<0.0001)および灰白質総体積の減少(F2, 12 236=55.65、P<0.0001)の減少、白質の高輝度体積の増加(F2, 10 827=4.48、P=0.011)と独立して関連していた。一方、遺伝的リスクは海馬体積の減少とのみ有意に関連していた(F2, 12 110=3.45、P=0.032)。

 以上の結果から、Tai氏らは「心代謝性疾患の多疾病罹患と遺伝的リスクの両方が、認知症リスクの上昇および関連する脳の神経画像所見と有意かつ独立して関連しており、心代謝性疾患の多疾病罹患でよりリスク上昇の程度が大きかった。将来の心代謝危険因子を標的とする介入は、遺伝的素因にかかわらず認知症の予防に有効であることが証明される可能性が考えられる」と結論している。

(坂田真子)