紫外線や抗がん薬、低温刺激などでDNAが損傷を受けた際のストレス応答の仕組みが研究されてきた。東京大学大学院の安原崇哲氏らは、ストレス下の細胞では核小体中に蛋白質とRNAの凝集体が形成され、空間的に活性化遺伝子領域に近づくことで機能異常な融合蛋白質が形成されるとの研究結果をMolecular Cell(2022年6月2日オンライン版)に報告した。

DNAの設計図領域が凝集体に巻き込まれて遺伝子融合が増加

 DNAが切断された際に、誤った末端同士が結合することを遺伝子融合と呼ぶ。この現象は複数のDNA切断末端同士が空間的に近い場合に生じやすいと考えられていたが、なぜDNAの異なる領域同士が接近してしまうのか、メカニズムは明らかでなかった。

 安原氏らは今回、正常細胞に紫外線照射や抗がん薬処理、低温刺激などのストレスを加えると、未成熟なリボソームRNA(rRNA)が核小体に蓄積し、そこにパラスペックルを構成するSFPQやNONOと呼ばれる蛋白質が結合して凝集体を形成することを確認した。パラスペックルは核内に存在する斑点状の構造体で、メッセンジャーRNA(mRNA)のスプライシングや転写の制御に関与している。凝集体は液-液相分離のような性質を持ち、ストレスの状態によって可逆的に変化することも分かった。

 さらに、定常状態では転写が活性化している遺伝子領域に結合するSFPQやNONOが、ストレス下で凝集体を形成している状態でも遺伝子領域に結合しうることを見いだした。これによって活性化遺伝子領域が凝集体に巻き込まれて核小体周辺に移動し、遺伝子融合のリスクを高めていることが分かった()。

図. ストレス下で生じた蛋白質とRNAの凝集体が活性化遺伝子領域に結合する仕組み

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(東京大学プレスリリースより引用)

 以上の結果から、同氏は「種々のストレスによって誘導される凝集体が複数の遺伝子領域を近接させ、遺伝子融合の発生頻度を高めることが、がん化をもたらすメカニズムの1つであると考えられる」と結論。「今回の発見が、がん以外の疾患の解明につながることを期待したい」と付言している。

(編集部)