健康への悪影響が指摘される、道路を走る自動車の騒音問題については、児童の認知発達との関連についてあまり解明されていないという。スペイン・Universitat Pompeu FabraのMaria Foraster氏らは道路の騒音曝露と学童の認知発達との関連を検討し、結果をPLoS Med(2022; 19: e1004001)に報告した。
7〜10歳の学童約2,700人に認知テストを4回実施
欧州では交通の騒音曝露による健康への悪影響は、大気汚染に次いで深刻であることが報告されている。しかし、それらは成人を対象とした報告が多く、児童への影響についてはあまり分かっていないと指摘するForaster氏ら。
そこで同氏らは、同国バルセロナ市在住の児童を対象に、騒音および大気汚染が認知発達に及ぼす影響を調査したBREATHEプロジェクトのデータを用いて、道路の騒音曝露と学童の認知発達との関連を検討した。
対象は、2012年1月〜13年3月に7〜10歳だった38校2,680人の学童。日中の校内および校外の道路騒音を測定し、学童には作業記憶、複雑作業記憶、不注意さを評価するコンピュータ式心理測定検査を3カ月置きに計4回実施した。対象の主な背景は、初回検査実施時の年齢8.5歳(中央値)、女児49.9%、公立校の生徒が50%を占めた。
騒音が5デシベル上昇すると、記憶力や不注意さへの影響が悪化
ベースライン時に道路の騒音の平均値と認知発達の平均値に有意な関連が示されたが、性、年齢、母親の学歴などで調整したところ、街路の平均騒音値と複雑作業記憶の関連(β=−3.92ポイント、95%CI −7.74〜−0.09ポイント、P=0.045)を除き有意差は消失した。
12カ月後の認知発達の変化で検討したところ、校外(校庭および街路)の道路の平均騒音値と学童の作業記憶および複雑作業記憶の遅延や不注意さの改善の緩慢さに有意な関連が認められ、例えば街路の騒音値が5デシベル(dB)上昇するごとに12カ月後の作業記憶は−4.83ポイント(95%CI −7.21〜−2.45ポイント)、複雑作業記憶は−4.01ポイント(同−5.91〜−2.10ポイント)それぞれ低下し、不注意さは2.07ミリ秒(同0.37〜3.77ミリ秒)上昇した(順にP<0.001、0.001、P=0.017)。ただし、校庭の騒音と不注意さの関連のみ有意差は示されなかった。
一方、校内(教室)では道路の平均騒音値と不注意さとの有意な関連が確認された(5dB上昇ごとに2.49ミリ秒上昇、95%CI 0〜4.81ミリ秒、P=0.050)。さらに、校内の騒音変動は全てのアウトカムとの有意な関連が維持された。なお、自宅の屋外騒音との関連は認められなかった。
以上から、Foraster氏らは「学校では校内外での道路の騒音曝露と学童の認知発達への悪影響に関連が認められた一方、自宅での騒音との関連は示されなかった」と結論。「従来指摘されてきた通り、児童は音などの外的刺激に脆弱であり、そのことが認知発達に悪影響を及ぼしている可能性がある」として、さまざまな背景の集団における長期的な研究の必要性を訴えている。
(編集部)