胎児の性が妊娠経過に及ぼす影響に着目した研究は、これまで欧米を中心に行われてきた。しかし、胎児の性と妊娠合併症である妊娠高血圧症候群、癒着胎盤、常位胎盤早期剝離などのリスクとの関連については明らかでなく、双胎妊娠に関する報告も少ない。そこで、国立成育医療センター周産期・母性診療センター産科医長の小川浩平氏らは、日本産科婦人科学会(JSOG)の周産期データーベースを用い、胎児の性と妊娠予後の関係について解析。単胎妊娠と双胎妊娠それぞれの結果をSci Rep(2020; 10: 18810)およびArch Gynecol Obstet(2022年5月27日オンライン版)に報告した。
男児で常位胎盤早期剝離のリスク高い
今回の研究は、JSOGが国内の三次医療機関149施設で集積したビッグデータを用いた。対象は2007~15年に出産した単胎妊娠の妊婦90万2,513人(男児妊娠46万4075人)と、2007~16年に出産した双胎妊娠の妊婦3万7,953人(胎盤が2つ羊膜が1つの二絨毛膜二羊膜性双胎妊娠はそれぞれ男児―男児7,816組、男児―女児8,535組、女児―女児7,453組、胎盤が1つ羊膜が2つの一絨毛膜二羊膜性双胎妊娠はそれぞれ男児―男児6,939組、女児―女児7,210組)。
先天性異常のある例は除外し、母体年齢や妊娠方法、妊娠前BMI、妊娠歴などの交絡因子を調整して解析した。
その結果、単胎妊娠では女児に対し男児では常位胎盤早期剥離、早産(37週以前)、巨大児(4,000g以上)のリスクが有意に高かった〔調整リスク比(aRR)は順に1.15、1.20、1.83、全てP<0.05)。一方、女児は男子と比べ妊娠高血圧腎症、癒着胎盤、骨盤位、低出生体重児のリスクが有意に高かった(aRRは順に1.09、1.11、1.15、1.19、全てP<0.05、図)。
図. 単胎妊娠における胎児の性別に見た妊娠アウトカム
(国立成育医療研究センタープレスリリースより)
双胎妊娠でも同様のリスク
双胎妊娠においては、二絨毛膜二羊膜性双胎妊娠で女児―女児の組み合わせに対し男児―男児では早産のリスクが有意に高く(aRR1.07、P<0.05)、女児―女児では妊娠高血圧腎症のリスクが有意に高かった(aRR1.35、P<0.05)。
また、一絨毛膜二羊膜性双胎妊娠においても二絨毛膜二羊膜性双胎妊娠同様に、女児―女児の組み合わせに対し男児―男児で早産のリスクが有意に高かった(aRR1.06、P<0.05)。なお、妊娠高血圧腎症のリスクは男児―男児と比べて女児―女児の方が高かったものの、有意差はなかった。
小川氏は「妊娠経過は母親の体質や生活習慣などに影響される他、胎児の性による影響もある程度受けていると考えられる」としながらも「今回の結果は疫学研究として相関関係を見たものであり、機序については解明されていない。また、データを集積した三次医療機関には、その特殊性から比較的リスクの高い妊婦が多く含まれている可能性もあり、胎児の性によって管理指針を変更する必要はない」と付言している。
(植松玲奈)