国立精神・神経医療研究センター(NCNP)病院脳神経外科の高山裕太郎氏(現・横浜市立大学病院脳神経外科)らは、島弁蓋部てんかんに対する新たな治療法としてVolume-basedラジオ波てんかん焦点温熱凝固術(RFTC)を提案し、小児例に施行。その結果、良好な治療成績が得られたことをOper Neurosurg(2022年6月14日オンライン版)に発表した。Volume-based RFTCは、これまで治療が難しいとされてきた島弁蓋部てんかんに対する有効な治療選択肢となりうる。
海外ではSEEG-guided RFTCが
島弁蓋部てんかんは、大脳深部の島回とその周囲の弁蓋部にてんかん焦点を有するもの。島回てんかんは、発作症状が複雑で診断困難であり、従来の開頭によるてんかん焦点切除術では血管損傷による麻痺の危険を伴う。また、弁蓋部は言語機能に関する重要な脳領域で、従来法では言語機能を損なう危険がある。
近年、脳を切除せずに、プローベを目的の脳領域へ正確に刺入し熱凝固するRFTCが、身体的負担を大幅に軽減できることから注目されている。
海外では、てんかんに対するRFTCとして、定位的頭蓋内脳波記録(SEEG)を行うために刺入した深部電極を用いたSEEG-guided RFTCが行われている。しかし、治療可能な範囲が限定的であるため、単独では十分な発作の制御が期待できない。
てんかん焦点全体を網羅的に治療
そこで高山氏らは、より根治性の高いRFTCの実現を目指し、新たな治療法Volume-based RFTCを考案した。
Volume-based RFTCでは、治療前に必ずSEEGを行い、標的とするてんかん焦点を決定。てんかん焦点全体を網羅的に治療する。直径2mm、有効長4mmの凝固プローベを用いて、74℃で60秒間温熱凝固を行うと、直径5mmの凝固病変が形成されることから、5mm径の球体モデルを三次元的に組み合わせて治療を計画する。
合併症なく、発作消失
薬物療法のみでは発作の制御に至らなかった島弁蓋部てんかん患児2例にVolume-based RFTCを施行したところ、合併症を残すことなく発作が消失した。治療後急性期に凝固病変の周囲に浮腫が生じたが、6カ月後には消失。浮腫に伴う永続的な合併症は生じなかった。また、治療6カ月後のMRIでは、深部病変のみが正確に治療されていることが確認された。
また、5mm凝固病変の周囲にT1強調画像で低信号となる領域の存在が確認され、これが最終的に治療効果の及ぶ範囲であることが分かった。これらの領域の体積を比較したところ、計画時の治療標的の70~78%が治療効果の及ぶ範囲であることが示された(治療標的6.304cm3、治療効果範囲4.424cm3)。
Volume-based RFTCについて、高山氏は「プローベの刺入回数が増えることによる血管損傷リスクについては慎重に考慮すべき」としながらも、「従来の開頭手術に比べ患者の負担が少なく、これまで治療が難しいとされてきた島弁蓋部てんかんに対して有効な治療選択肢となることが期待される」と結論した。
(比企野綾子)