エーザイは6月22日、早期アルツハイマー病(AD)に対する抗アミロイドベータ(Aβ)抗体lecanemabの潜在的な経済価値について推算した結果をNeurol Ther2022年6月20日オンライン版)に報告した。ベースラインから病態が進行するまでの期間を解析した結果、標準治療(SoC)群と比べ、SoCにlecanemabを上乗せした併用群では軽度ADへの進行を2.51年、中等度ADへの進行を3.13年、高度ADへの進行を2.34年遅らせる可能性が示唆された。さらに、医療費削減効果についての解析では、lecanemab併用群では質調整生存年(QALY)が0.61延長し、総費用8,707ドル(約117万円)の減少をもたらすと推計された。

潜在的価値に基づく価格は9,249~3万5,605ドル

 今回の発表は、2022年4月に同誌に掲載されたlecanemabの長期的健康アウトカムの評価を行った研究報告(Neurol Ther 2022; 11: 863-880)に次ぐ第二報となる。研究でのシミュレーションは、アミロイド病理を有する早期AD患者に対するlecanemabの有効性と安全性を評価した第Ⅱb相試験(201試験)の結果および公表された論文を用いて実施された。医療費支払者の観点では、直接的なケアコスト(医療、介護・在宅サービス、lecanemabを除く投薬、その他の介入コストなど)に焦点を当てるのに対し、今回の研究では社会的観点として追加で社会的コスト(家族介護によるインフォーマル・ケアコストおよび労働生産性損失)を考慮している。

 ベースラインから病態が進行するまでの期間を解析した結果、SoC群に比べ、lecanemab併用群では軽度ADまで2.51年、中等度ADまで3.13年、高度ADまで2.34年遅らせることができると推定された。

 また、アミロイド病理を有する早期AD患者において、lecanemab群はSoC群と比べて、医療費支払者観点では0.61QALYの延長と8,707ドルの総費用(lecanemabの薬剤費を除く)の減少をもたらすと推計。社会的観点に基づく評価では、0.64QALY延長、1万1,214ドル減少する。一方、lecanemab群の潜在的な経済価値を複数試算したところ、米国医療制度下のlecanemabの潜在的価値に基づく価格(value-based price;VBP)は、年間9,249ドル~3万5,605ドル(社会的観点:1万400ドル~3万8,053ドル)と推計された。

 研究グループは、今回の知見を踏まえ「lecanemabはADの発症を遅らせる可能性を秘めており、それがAD未発症年数の延長と大幅なケアのコスト削減につながり、患者、介護者、社会に大きな利益をもたらす可能性があることを実証した」としている。

(小沼紀子)