筋ジストロフィーは進行性の筋力低下や筋萎縮などが特徴の遺伝性難病である。中でもデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は患者数が最も多く、筋力や心機能の低下に加え約30%が自閉症スペクトラム障害(ASD)などの脳症状を合併する。国立精神・神経医療研究センター(NCNP)遺伝子疾患治療研究部特別研究員の橋本泰昌氏らは、DMDモデルマウスを用いた実験でDMD遺伝子変異がASD様症状の原因であり、核酸医薬またはmRNA医薬の投与により治療できる可能性が示されたことをProg Neurobiol2022; 216: 102288)に発表した。

変異の場所により欠損するアイソフォームが異なる

 DMDはX連鎖劣性(潜性)遺伝性疾患で、DMD遺伝子変異により筋肉の構造維持に関与するジストロフィン蛋白質が産生されなくなり、筋力の低下や筋萎縮が生じる。DMD遺伝子変異が生じる場所により欠損するジストロフィンのアイソフォームは異なり、上流に変異がある場合はDp427が欠損し、下流にある場合はDp427とDp140が欠損する。Dp427欠損例と比べてDp427とDp140の両方が欠損した例ではASD様症状が起こりやすく、Dp140単独欠損例では、よりASD様症状が生じやすいことが知られているが、その機序は明らかでなかった。

扁桃体を対象にニューロン機能を比較検討

 橋本氏らは脳に①Dp427のみが発現しない筋ジストロフィーモデル(mdx)23マウス、②Dp427とDp140が発現しないmdx52マウス、③野生型マウス(WT)―を用い、電気生理学・光遺伝学解析などを駆使して扁桃体におけるシナプスの機能や構造、マウス社会性行動との関係を調査した。

 その結果、mdx52マウスは初対面のマウスに対しASD様のコミュニケーション異常(過剰な興味)を示し、mdx23マウスやWTと比べて扁桃体における興奮性ニューロンの機能低下が確認された。

 次に、mdx52マウスにエクソン53スキップの作用を有する核酸医薬を脳室内投与したところ、興奮性ニューロンの機能やASD様の社会的コミュニケーション異常が正常化した(図1)。さらにDp140 mRNA内包合成高分子キャリアを扁桃体基底外側部(BLA)内に投与すると、Dp140の発現回復が認められた(図2)。

図1. mdx52マウスへの核酸医薬脳室内投与後の変化

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図2. Dp140 mRNAを内包する合成高分子キャリア投与後のDp140発現

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(図1、2ともNCNPプレスリリースより)

 これらの結果を踏まえ、橋本氏らは「DMDモデルマウスを用いた検討から、ジストロフィンDp140の欠損によりASD様の症状を合併する機序を解明した。核酸医薬やmRNA医薬投与はDp140の発現を回復させ、DMD患者における脳症状治療に有用である可能性も示された」と結論。「筋ジストロフィーだけでなく、精神・神経・筋疾患に対する核酸医薬やmRNA医薬の開発に応用できる」と期待を寄せている。

(小野寺尊允)