米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、心血管疾患やがんの予防を目的としたビタミン、ミネラル、マルチビタミンのサプリメント摂取について2014年に発表した勧告を改訂するため、新たなエビデンスを評価した。その結果、妊娠していない成人米国民において心血管疾患やがん予防を目的とする、βカロテンまたはビタミンEのサプリメントの摂取は「推奨しない(Grade:D)」、マルチビタミンのサプリメントの摂取は「利益と害を評価するためのエビデンスが不十分である(Grade:I statement)」と結論し、2014年の勧告から変更しないことを、JAMA(2022; 327:2326-2333)に発表した(関連記事「サプリに心血管疾患・がんの初発予防の益なし」「CVD・がん予防のためのビタミンE使用『勧めない』」)。
半数以上が1カ月に1度はサプリメント摂取
2011〜14年の米の国民保健栄養調査(NHANES)によると、成人の半数以上が直近1カ月間に1種類以上のサプリメントを摂取し、約3割がマルチビタミン・ミネラルを摂取したと報告している。心血管疾患とがんは主要な死因であり、米国では毎年全死亡の約半数を占めている。心血管疾患およびがんに炎症と酸化ストレスが関与し、サプリメントは抗炎症作用と抗酸化作用を有する可能性があるため、これらの疾患の予防手段としてサプリメント摂取が提案されてきた。
しかしUSPSTFは、2003年の勧告で健康な成人における心血管疾患やがんの予防目的のためのビタミンA、C、E、葉酸、マルチビタミンの摂取などは「利益と害を評価するためのエビデンスが不十分(Grade:I statement)」であり、βカロテンは「推奨しない(Grade:D)」とし、さらに2014年の勧告ではβカロテンとともにビタミンEも「推奨しない」に分類した。
今回、USPSTFはこの勧告を改訂するため、心血管疾患、慢性疾患あるいは栄養不足がなく、妊娠していない18歳以上の成人米国民を対象に、心血管疾患、がんおよび死亡のリスクを低減する目的の1種類のビタミン・ミネラルサプリメント摂取、2種類のビタミン・ミネラルを組み合わせたサプリメント摂取、あるいはマルチビタミンサプリメント摂取の有用性、有害性に関する最新研究のシステマチックレビュー結果を評価した。
βカロテンとビタミンEは「予防に益なし」の十分なエビデンス
その結果、βカロテンサプリメントの摂取は、心血管疾患またはがんの予防になんら利益をもたらさないという十分なエビデンスがあり、しかも肺がんリスクの高い人においてリスクをさらに高めるという十分なエビデンスがあることから、中等度の確実性をもって害が利益を上回ると結論。
なお、「中等度の確実性」であることから、将来的により多くのエビデンスが追加されれば、観察された有効性の強度または方向性が変化し、結論が変わる可能性があるとしている。
ビタミンEサプリメントの摂取については、心血管疾患やがんの予防に何ら利益をもたらさないという十分なエビデンスがあり、しかも小さいが害を引き起こす十分なエビデンスがあることから、中等度の確実性をもって純利益(一般的なプライマリケア人口集団で実施される予防医療の利益から害を差し引いたもの)はないと結論づけた。
USPSTFは、こうした根拠に基づき妊娠していない成人米国民において心血管疾患またはがんの予防のためにβカロテンまたはビタミンEサプリメントの摂取は「推奨しない(Grade:D)」とし、臨床医にはこれらを使用しないことを提言している。
マルチビタミンのサプリメントは個々の患者で決定を
マルチビタミンや、βカロテンとビタミンEを除いた1種類または2種類のビタミン・ミネラルサプリメントについては、心血管疾患またはがんの予防のために摂取することの「利益と害のバランスを評価するにはエビデンスが不足しており、不十分である(Grade:I statement)」と結論。臨床医に対し、「これらのサプリメントを勧めるかどうかは個々の患者に応じて決定すべきであり、患者は利益と害のバランスに関する不確実性を理解する必要がある」と提言している。
(宇佐美陽子)