1歳未満の乳児では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスクが高いことが報告されているが、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン接種の対象年齢に達していないため予防は難しいのが現状だ。こうした中、ノルウェー・Norwegian Institute of Public HealthのEllen Ø. Carlsen氏らは、妊娠中にSARS-CoV-2ワクチンを接種した女性から生まれた小児では、生後4カ月間のSARS-CoV-2の感染リスクが低かったとする住民ベースのコホート研究結果をJAMA Intern Med(2022年6月1日オンライン版)に報告した。

出生児2万1,643例を解析

 1歳以上の小児と比べ、1歳未満の乳児ではCOVID-19の重症化リスクが高いことが報告されている。しかし、現時点で5歳未満の小児はSARS-CoV-2の接種対象外であるため予防は難しい。

 妊娠中の百日咳または季節性インフルエンザのワクチン接種は、胎盤を介した抗体の移行により出生児にも有用であることが示されており、SARS-CoV-2ワクチンについても同様に保護的な作用をもたらす可能性がある。最近の研究では、SARS-CoV-2ワクチン未接種の母親から生まれた乳児と比べ、ワクチンを接種した母親から生まれた乳児はCOVID-19に関連する入院リスクが61%低かったとする結果も示されている。

 そこでCarlsen氏らは今回、妊娠中のSARS-CoV-2ワクチン接種と出生児の生後4カ月間のSARS-CoV-2感染の関連について検討するため、ノルウェーの出生登録データを用いたコホート研究を実施した。

 解析対象は、2021年9月1日~22年2月28日に同国で出生した児2万1,643例。生後4カ月間のSARS-CoV-2感染リスク(PCR検査で陽性となるリスク)を、妊娠中(第2トリメスターまたは第3トリメスター)にSARS-CoV-2のmRNAワクチンを接種した母親から生まれた小児(ワクチン接種群)とワクチン未接種の母親から生まれた小児(ワクチン未接種群)で比較した。解析にはCox比例ハザード回帰モデルを用いた。

妊娠中3回目接種で児の感染リスク78%低下

 出生児2万1,643例中9,739例(45.0%)の母親が妊娠中に2回または3回のmRNAワクチンを接種していた。生後4カ月間にSARS-CoV-2のPCR検査で陽性となった児は906例(4.1%)であった。

 母親の年齢、経産回数、教育歴、出生国、居住地を調整して解析した結果、生後4カ月間のSARS-CoV-2感染リスクはワクチン未接種群と比べてワクチン接種群で低かった。生後4カ月間のSARS-CoV-2感染率は、デルタ株流行期でワクチン未接種群の1万日当たり3.0に対してワクチン接種群では1万日当たり1.2と低く〔調整後ハザード比(aHR)0.29、95%CI 0.19~0.44〕、オミクロン株流行期でもそれぞれ10.9、7.0と低かった(同0.67、0.57~0.79)。

 また、妊娠中にワクチンを3回接種した母親から生まれた児(824例)では、デルタ株流行期のSARS-CoV-2感染例はなかった。さらに、妊娠中にワクチンを3回接種した母親から生まれた児では、2回接種した母親から生まれた児と比べてオミクロン流行期におけるSARS-CoV-2感染リスクの低下度が大きかった(ワクチン未接種群に対するaHRは3回接種群0.22、95%CI 0.12~0.43、2回接種群0.70、95%CI 0.59~0.83)〕。

 以上から、Carlsen氏らは「ノルウェーの住民ベースのコホート研究において、妊娠中にSARS-CoV-2ワクチンを接種した母親から生まれた小児では生後4カ月間にSARS-CoV-2の検査で陽性となるリスクが低いことが示された」と結論。その上で、「母親が妊娠中に同ワクチンを接種することで、生後間もない乳児をSARS-CoV-2感染から守ることができる可能性がある」と付言している。

(岬りり子)