日本では新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染拡大以降、2年間にわたってインフルエンザウイルス感染症(以下、インフルエンザ)の流行が見られていない。しかし、北半球での流行予測の指標となる南半球のオーストラリアで、今年(2022年)4月中旬以降からインフルエンザの流行が報告されている。これを受けて日本ワクチン学会は、2022/23シーズンのインフルエンザワクチン接種に関する見解を表明。生後6カ月以上の全ての人に対し接種を推奨した(関連記事「今冬のインフルエンザ動向を『超』早読み」)。
抗体保有率が低い年齢群も
日本では2020年1月以降、今年6月28日までに928万3,083例のSARS-CoV-2感染と3万1,246例の感染による死亡が確認されている。一方、インフルエンザの流行はこの2年間で認められていない。
2020/21シーズンにおけるインフルエンザ患者の推計は1.4万例で、前シーズンの728.9万例、前々シーズンの1,200.5万例と比べて著明に減少していた。2021年第36週~22年第10週のインフルエンザ患者の報告総数は753例で、2020/21シーズン同時期の1,107例を下回った。
また、2021/22シーズンのワクチン株に用いられた4つのインフルエンザウイルスに対し、抗体保有率が低い年齢群も確認されており、この状況でインフルエンザが3シーズンぶりに流行した場合、死亡者や重症者の増大が懸念され、またCOVID-19と時期を同じくして流行することなどにより、医療負荷の増大が危惧されるという。
なお、インフルエンザ流行シーズンを迎えた南半球のオーストラリアでは、今年3月以降にインフルエンザ様疾患の報告例が増加していることが報告されている。特に4月中旬以降の週ごとの報告数は過去5年間の平均値を超え、5歳未満および5~19歳で多いという。
定期接種対象、医療従事者、合併症高リスク群で強く推奨
これらを踏まえ、日本ワクチン学会は2022/23シーズンのインフルエンザワクチン接種について、生後6カ月以上の全ての人に対し接種を推奨している。また、特に接種が推奨される者として、「定期接種対象者」「医療従事者、エッセンシャルワーカー」「インフルエンザ合併症の高リスク群」を挙げている(表)。
表. 特にインフルエンザワクチン接種が推奨される者
(「2022-23シーズンの季節性インフルエンザワクチンの接種に関する日本ワクチン学会の見解」を基に編集部作成)
日本における2022/23シーズンのインフルエンザHAワクチンはA型株が「A/ビクトリア/1/2020(IVR-217)(H1N1)」「A/ダーウィン/9/2021(SAN-010)(H3N2)」、B型株が「B/プーケット/3073/2013 (山形系統)」「B/オーストリア/1359417/2021(BVR-26)(ビクトリア系統)」であり、前シーズンからA/H3N2株とB/ビクトリア系統株の2株が変更となった。
見解では「COVID-19の流行状況を注視しながらインフルエンザワクチン接種を遅滞なく実施するため、全ての感染症、各種ワクチンに関する正確な情報提供に努め、希望者にワクチン接種が進められるよう配慮することが重要」と結論している。
(編集部)