HDLコレステロール(HDL-C)高値が心血管疾患(CVD)リスクの低下に関連していることは広く知られているが、その一方でHDL-Cが高過ぎる人で死亡リスクが高いことが複数の観察研究で示されている。米・Emory University School of MedicineのChang Liu氏らは、英米のバイオバンク研究のデータを用いて冠動脈疾患(CAD)患者におけるHDL-C超高値(80mg/dL超)と死亡リスクの関連について検討。HDL-C値が中程度(40~60mg/dL)の群と比べて、低値(30mg/dL未満)群と超高値群のいずれにおいても全死亡および心血管死のリスクが上昇し、HDL-C値とこれらのアウトカムとの間にU字型の関連が認められたとする解析結果をJAMA Cardiol2022年5月18日オンライン版)で報告した。

UK Biobankなどの参加者計2万例を解析

 長年にわたってHDL-C高値はCVDリスクの低下に関連していると考えられてきた。しかし近年の研究では、HDL-Cの上昇作用を有するコレステロールエステル転送蛋白(CETP)阻害薬による薬物療法などにおいて、CVDリスクの抑制は明確に示されていない。

 デンマークやカナダの疫学研究では、CVDのない人において、HDL-C超高値が死亡リスクの上昇に関連するとの解析結果が示されている。しかし、CAD患者におけるHDL-C超高値と死亡リスクの関連については不明であった。

 そこでLiu氏らは今回、英国のUK Biobankおよび米国のEmory Cardiovascular Biobankの2件のバイオバンク研究の参加者のデータを用いて、CAD患者におけるHDL-C超高値(80mg/dL超)と死亡リスクの関連について検討した。

 解析対象は、研究登録時点でCADの既往があった40~72歳のUK Biobank参加者1万4,478例(平均年齢62.1歳、男性76.2%)と、CADと確定診断されている18歳以上のEmory Cardiovascular Biobank参加者5,467例(平均年齢63.8歳、男性66.4%)。主要評価項目は全死亡、副次評価項目は心血管死とした。

中程度群と比べて全死亡リスク約2倍

 UK Biobankについては8.9年〔四分位範囲(IQR)8.0~9.7年〕、Emory Cardiovascular Biobankについては6.7年(同4.0~10.8年)の追跡期間(中央値)の解析から、HDL-C値が中程度(40~60mg/dL)の群と比べて低値(30mg/dL未満)群と超高値群の両群で全死亡および心血管死のリスクが高いことが示され、HDL-C値とこれらのアウトカムとの間にU字型の関連が認められた。

 年齢、性、人種および民族、BMI、併存疾患、推算糸球体濾過量(eGFR)、飲酒習慣、中性脂肪、LDL-Cなどの交絡因子を調整して解析したところ、UK Biobank参加者のうちHDL-C超高値群では中程度の群と比べて全死亡と心血管死のいずれのリスクも高かった〔全死亡:ハザード比(HR)1.96、95%CI 1.42~2.71、P<0.001、心血管死:HR 1.71、95%CI 1.09~2.68、P=0.02〕。これらの結果はEmory Cardiovascular Biobankの参加者でも追認された。

 以上から、Liu氏らは「CAD患者の集団において、HDL-C値が正常範囲の人と比べて80mg/dL超の人では全死亡および心血管死のリスクが高いことが示された」と結論。その上で、「リスク予測に重大かつ意味のある臨床的影響を与える研究結果となった」と述べている。

(岬りり子)