世界一の高齢社会を迎えた日本では認知症患者の増加が著しい。日本の代表的な大規模認知症コホート研究の1つである中山町研究(愛媛県)グループは、1997年、2004年、2012年、2016年に実施した調査データを基に認知症有病率の経年的推移を検討。認知症有病率は人口の高齢化以上に上昇しており、高齢化以外の要因が示唆されたことから、認知症高齢者の増加を抑制するには認知症の促進・予防因子の解明と予防戦略の策定が必要だとPsychogeriatrics(6月26日オンライン版)に報告した。

画像検査も実施して診断、サブタイプを含む認知症有病率を検討

 中山町研究は愛媛県中山町の65歳以上の住民を対象に認知症に関する縦断調査を1997年、2004年、2012年、2016年に実施している。1997年から2016年の間に総人口が5,038人から3,180人に減少、高齢化率は28.1%から47.5%に上昇しており、この人口推移の傾向は日本の地方都市に共通するものであるという。

 調査方法は主に①スクリーニング(質問票および面接)、②臨床評価(神経学的・神経心理学的検査)、③診断〔CT(2016年はMRI)および血清ビタミンB12濃度、甲状腺機能などの血液検査に加えて複数の認知症専門医と臨床心理士による認知症サブタイプの診断〕ーの3段階で実施している。1997年調査では同町の65歳以上人口1,418人中1,220人(86.0%)、2004年調査では1,599人中1,290人(80.7%)、2012年調査では1,493人中1,129人(75.6%)、2016年調査では1,512人中927人(61.3%)が参加した。

 調査参加者の平均年齢は1997年調査では74.1歳、2012年調査では78.0歳と上昇したが、2016年調査では77.1歳と低下した。4回の調査において一貫して女性が全体の約6割を占めていた。

認知症およびアルツハイマー病の年齢調整有病率は経年的に上昇、血管性認知症は不変

 認知症全体の年齢調整有病率は、1997年調査では4.5%(95%CI 3.5〜5.6%、60例)、2004年調査では5.7%(同4.7〜6.8%、92例)、2012年調査では5.3%(同4.3〜6.2%、104例)、2016年調査では9.5%(同8.0〜11.1%、151例)と、経年的に有意な上昇が認められた(傾向のP<0.05)。4回の調査のいずれでも認知症患者における女性の割合が多かった。

 アルツハイマー病(脳血管障害および血管性認知症合併を含む)の年齢調整有病率はそれぞれの調査時で1.7%(同1.2〜2.1%、22例)、3.0%(同2.4〜3.6%、50例)、2.5%(同1.9〜3.1%、54例)、4.9%(同3.9〜5.9%、83例)、分類不能の認知症は0.8%(同0.5〜1.1%、10例)、1.0%(同0.7〜1.2%、15例)、1.0%(同0.8〜1.1%、19例)、2.2%(同1.7〜2.8%、37例)といずれも有意な上昇を示した(ともに傾向のP<0.05)。

 一方、血管性認知症はそれぞれ2.1%(同1.6〜2.6%、28例)、1.8%(同1.4〜2.2%、27例)、1.8%(同1.5〜2.1%、31例)、2.4%(同1.8〜3.1%、31例)と、ほぼ一定であった。

町ぐるみの対策が血管性認知症の抑制に貢献か

 世界各国の認知症有病率の経年変化に関する疫学調査によると、英国、米国、スウェーデンでは低下または安定している一方、日本やフランス、カナダでは上昇していると報告されている。日本における認知症有病率の上昇は代謝性危険因子の増加、死亡率の低下、加齢関連疾患の治療法の進歩に関連すると推測されている。今回の研究では、認知症の年齢調整有病率が有意に上昇していることから、人口の高齢化以外の要因が有病率上昇の原因であることが示唆された。研究グループは、今後、認知症の発症率や生存率の推移を調べ、認知症有病率上昇の原因を探る予定であるという。

 また、血管性認知症に関しては粗有病率に見られた上昇傾向が年齢調整後に消失したことから、人口の高齢化に起因していることが示唆された。この点について研究グループは、「中山町研究は非介入研究だが、開業医の全面的な協力の下、認知症の早期発見に町ぐるみで取り組んでおり、血管性認知症や脳血管疾患と診断された住民を直ちに開業医に紹介、高血圧糖尿病、脂質異常症などの心血管危険因子を積極的に管理するなど、徹底したフォローアップを行っている。このような町ぐるみの認知症対策が血管性認知症の発症抑制に貢献したのでは」と考察している。

 以上のことから研究グループは、今回の調査において認知症の有病率は人口の高齢化を調整後も上昇しており、認知症高齢者の増加の背景には高齢化以外の要因の存在が示唆された。認知症の発症率、死亡率、予後の経年変化や、認知症の促進・予防因子の解明、予防策の開発が必要だと結論した。

編集部