「合衆国憲法は各州の市民が中絶を規制・禁止することを禁じていない」―半世紀にわたり保障してきた憲法に基づく中絶権の保護が6月24日の米連邦最高裁判決により終焉を迎え、中絶権をめぐる対応は各州の決定に委ねられることになった。米ニュースサイトPOLITICOが5月2日に同判決草案(多数派意見書)をリークしたのを受け、米国内では判決公表前から人工妊娠中絶の権利喪失に対する懸念が高まっていた。米・Bryn Mawr CollegeのAdam Poliak氏らは、リーク直後から「中絶薬」のインターネット検索件数が過去最多を記録しており、生殖に関する権利(リプロダクティブ・ライツ)が厳しく制限されている州ほど検索件数が増えたとする調査結果を、JAMA Intern Med(6月29日オンライン版)に報告した(関連記事「NEJMが中絶否定の米最高裁判決を非難」)。

リーク後3日間のRSV Top3は、ネブラスカ州、アイオワ州、ミズーリ州

 Poliak氏らは、Googleの検索トレンド(http://google.com/trends)を用いて、Googleが検索データの収集を開始した2004年1月から2022年5月8日における中絶薬(abortion pill)または各種中絶薬(mifepristone/mifeprex、misoprostol/cytotec)の検索状況を調べた。なお、Gooleは相対検索量(RSV)を0〜100で示しており、100は対象期間または対象地域における検索件数の最高値を意味する。

 まず、調査期間全体の週次動向をcomscore.comにおける実際の検索回数から推定した。次に、リーク前後72時間における1時間ごとのRSVを調査した。自己回帰積分移動平均モデルを用いて予想値を算出し期間ごとの観測値と予想値を比較、観測値と予測値の比と95%信頼区間から増加率を算出した。さらに、リプロダクティブ・ライツに関する指標(中絶手術への公的資金援助、居住する郡における中絶医療医師の有無など)に基づき各州をA〜Fにグレード化し、リプロダクティブ・ライツ保護の程度とRSVの関連を検討した。

 その結果、リーク日(5月2日)を含む2022年5月1〜8日の1週間における中絶薬関連用語の検索数はおよそ35万回と過去最多を記録した。リーク前後の72時間における検索傾向を1時間ごとに分析すると、リーク直後から中絶薬に関する検索が急増、検索件数は期間にかかわらず予想値を一貫して上回る162%(95%CI 149〜175%)であった。

 リーク後3日間のRSVはネブラスカ州が100と最大、次いでアイオワ州が70、ミズーリ州が44であった。リプロダクティブ・ライツの制限が厳しい州における検索数が有意に多く、Aグレードの州におけるRSVの平均値は33、Bグレードでは35、Cグレードでは37、Dグレードでは38、Fグレードでは54と、リプロダクティブ・ライツの制限が強い州ほどRSVが増すという関連性が認められた(グレード当たりのRSV変化量3.6、P=0.01)

女性が合法的かつ安全に中絶薬を入手できる情報へのアクセス整備が急務

 Poliak氏らは「こうした検索行動が実際の中絶行為と関連するかどうかは確認できず、また、検索者の属性を評価できない点がこの研究の限界である」とした。しかし、中絶薬への関心が高まっており、多くの女性が中絶薬の使用に頼るか否か選択する可能性があると医師に対し警鐘を鳴らす。実際、2017年の全米インターネット調査では、生殖年齢(18〜49歳)の女性の1.4%が自己管理による中絶を試みたことがあると回答しており、過少申告を調整するとその割合は7.0%に及ぶことが示唆されている。中絶薬は処方箋医薬品であり、米国内での使用は制限されているが、インターネット検索の目的は、中絶薬の安全性や有効性を調べるため、入手方法を調べるため、入手が制限されることを見越して備蓄するためかもしれない。

 同氏らは「女性が合法的かつ安全に中絶薬を入手できる場所に関する情報を、医療者との遠隔医療相談を含め、オンラインで提供できるようにすることが急務である」と述べ、「連邦政府や州政府の中絶関連法の改正が、経口中絶薬やその他の医療介入に関する情報ニーズにどのような影響を与えるかを監視するために、継続的な調査が必要である」と結んでいる。

編集部