抗菌薬関連下痢症(AAD)に対するプロバイオティクスの予防効果の有無についてはまだ定まっていない。ポーランド・Medical University of WarsawのJan Łukasik氏らは、抗菌薬投与後24時間以内の小児を対象に、プロバイオティクスによるAAD予防効果を検討するプラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)Multispecies Probiotic in AAD Studyを実施。その結果、抗菌薬投与中から終了後7日間にわたり複数種のプロバイオティクスを併用してもAADに対する予防効果は認められなかったが、下痢の発生率はプラセボと比べて35%有意に低減したことをJAMA Pediatrics(2022年6月21日オンライン版)に報告した。

抗菌薬投与開始24時間以内の小児を対象にRCTを実施

 対象は、2018年2月から2021年5月までにオランダの3病院およびポーランドの2病院において広域スペクトルの全身性抗菌薬の経口投与または静脈内投与を受けた外来・入院患者のうち、投与開始から24時間以内の生後3カ月〜18歳の350例(男児192例、平均年齢50カ月、範囲3~212カ月)。プロバイオティクス群またはプラセボ群にランダムに割り付け、抗菌薬投与中および終了から7日間(最大17日間)にわたりそれぞれを継続投与した。解析対象は313例(プラセボ群155例、プロバイオティクス群158例)であった。

 プロバイオティクスは、ビフィズス菌2株(Bifidobacterium BifidumW23、Bifidobacterium lactisW51)と乳酸菌6株(Lactobacillus acidophilusW37、Lactobacillus acidophilusW55、Lactocaseibacillus paracaseiW20、Lactoplantibacillus plantariumW62、Lactocaseibacillus rhamnosusW71、Ligilactobacillus salivariusW24)の計8株を配合したものを使用し、100億コロニー形成単位(CFU)/日を総量として投与した。

 主要評価項目はAADとし、病原検査での起因菌がClostridium difficileまたは原因不明の軟便または水溶便1日3回以上をAADと定義した。副次評価項目は、病因にかかわらない下痢(1日3回以上の軟便または水様便)、下痢の頻度や正常化までの期間、下痢による抗菌薬の中止や入院、輸液の必要性などとした。

下痢発生率、輸液必要患児割合は有意に低下

 AADの発生率はプロバイオティクス群とプラセボ群で差が見られず〔14.6% vs. 18.1%、相対リスク(RR)0.81、95%CI 0.49~1.33〕、AADに対するプロバイオティクスの有意な予防効果は認められなかった。AADを軽症と重症で分けた解析でも結果は同様だった。

 一方、プロバイオティクス群ではプラセボ群と比べ病因にかかわらない下痢の発生率が有意に低かった(20.9% vs. 32.3%、同0.65、0.44~0.94、P=0.02)。下痢により輸液を要した患児の割合についても、プロバイオティクス群ではプラセボ群と比べて有意に低かった(0% vs. 3.2%、P=0.03)。有害事象を含むその他の副次評価項目については、両群間で差は認められなかった。

下痢予防にプロバイオティクスは日常診療に即した妥当な選択

 Łukasik氏らは「今回の試験では、AADについて厳格な定義を用いて分析した結果、小児のAADに対する複数種のプロバイオティクスの予防効果は認められなかった。しかし、抗菌薬投与中からその後7日間にわたりプロバイオティクスを併用すると、その間の病因にかかわらない下痢全体の発生を有意に抑えられるという有益な面を見いだすことができた」と結論。

 プロバイオティクスにより下痢全体のリスクが下がったにもかかわらず、AAD発生率にはプラセボとの差が見られなかった理由は不明としながらも、「下痢の予防を目的としたプロバイオティクスの投与は日常診療に即した手法であり、小児に抗菌薬を投与する際はプロバイオティクスの併用を検討してもよいものと考えられる。また、今回の結果から、AADの定義によって臨床試験結果の解釈に影響が出る可能性があることも示された」と付言している。

小谷明美