福岡・大分両県で40人が死亡、2人が行方不明となった九州北部豪雨から5日で5年。大きな被害を受けた福岡県朝倉市で温泉施設「やぐるま荘」を経営する師岡哲也さん(51)は当時、水門番を務め、豪雨の恐ろしさを目の当たりにした。豪雨やコロナ禍の影響で客足の戻りは鈍く、今も試行錯誤が続く。「川を恨んではいない。温泉地の原鶴を盛り上げたい」と語った。
 原鶴温泉の近くには筑後川が流れ、放水路が整備されている。師岡さんは豪雨発生時、放水路に三つある水門のうち、一つの門番をしていた。「放水路が(水で)あふれそうだった。人が乗っていない自動車があっという間に流れていった。雷が鳴っていてとにかく寒かった」と振り返る。
 豪雨では、筑後川が注ぐ有明海で見つかった犠牲者も数人おり、その中に師岡さんの知人も含まれていた。だが、「ここで生まれ育った者にとって、筑後川は母なる川。全てをのみ込んでしまった川をよく思わない人もいるが、自然がやったことだし、川を恨んではいない」と話す。
 水道が復旧するまでの約2カ月間、「(泥で)汚してもらってもいいから、温まってもらいたい」と、被災者らに温泉を無料開放した。「お前、生きとったか」と温泉で偶然再会を果たす人もおり、「いろんなドラマがあった」という。
 豪雨の影響で約1カ月間営業ができず収入がなかったが、無料開放した温泉に来た地元住民らが野菜などを差し入れてくれた。「善かれと思ってしたことが自分にも返ってきた」と語った。
 「豪雨で川のイメージが悪くなったところはあるが、払拭(ふっしょく)しないといけない」。師岡さんは温泉経営の傍ら、川でカヌーなどのレジャーを観光客に提供し、現在も月に2回、水門が正常に稼働するか確認を行っている。 (C)時事通信社