自己免疫疾患とアレルギー疾患は異なる疾患群と考えられているが、一部の遺伝子領域において共有される遺伝的リスクに関する報告があることから、全容解明が望まれている。大阪大学大学院遺伝統計学の白井雄也氏、教授の岡田随象氏らの研究グループは、日英のバイオバンクから収集した計84万人のヒトゲノム情報を解析した結果、自己免疫疾患とアレルギー疾患に共通する遺伝的特徴を明らかにしたとAnn Rheum Dis(2022年6月26日オンライン版)に報告した。
多様な集団間での共通点と相違点を検討
先行研究において、自己免疫疾患とアレルギー疾患には共通した遺伝的要因が部分的に存在すること、アレルギー疾患の存在により自己免疫疾患の発症リスクが上昇することが報告されている(Eur Respir J 2019; 54: 1900476)。このことから、自己免疫疾患とアレルギー疾患に共通した病態の存在が示唆されていたが、これまで両疾患群を統合した大規模なゲノム研究は行われていなかった。
研究グループは今回、日本人集団と欧米人集団のヒトゲノム情報を活用して自己免疫疾患とアレルギー疾患に関する大規模なゲノムワイド関連解析(GWAS)を実施。多様な集団間における両疾患群の共通点と相違点を検討した。
対象は、バイオバンク・ジャパンとUK Biobankから抽出した84万人のヒトゲノム情報データ。解析対象疾患は、両バイオバンクで共通して登録していた自己免疫疾患〔関節リウマチ(RA)、バセドウ病(GD)、1型糖尿病(T1D)〕とアレルギー疾患〔気管支喘息(BA)、アトピー性皮膚炎(AD)、花粉症(PO)〕とした。
GWASを行った結果、自己免疫疾患とアレルギー疾患はゲノム情報により2群に大別することができた。両者の違いは①自己免疫疾患では疾患リスクがヒト白血球抗原(HLA)遺伝子領域に集中している、②アレルギー疾患では疾患リスクがサイトカイン遺伝子領域に偏ってゲノム上に散在している―ことに起因していた。一方、部分的に共通の疾患リスクを示す遺伝子領域も存在しており、新たな遺伝子多型を4カ所(PRDM2、HBS1L、G3BP1、POU2AF1)に同定した。そのうち、東アジア人集団において特異的なものはG3BP1領域の遺伝子多型、多様な集団間で共通するものはPOU2AF1領域の遺伝子多型であった(図)。
図. 自己免疫疾患とアレルギー疾患のリスクを低下させる遺伝子多型
(図、大阪大学プレスリリースより)
G3BP1はⅠ型インターフェロン発現に関わる遺伝子で、POU2AF1はB細胞において抗体産生に関わる遺伝子である。これらの領域の遺伝子多型、遺伝子発現量を減少させることで疾患リスクを低減できることが示唆されている。また、自己免疫疾患との統合解析を通じ、アレルギー疾患の遺伝的リスクには自然免疫に関わる遺伝子や免疫細胞が関連することも分かった。
以上の結果から、研究グループは「自己免疫疾患とアレルギー疾患はゲノム情報に基づき分類できる一方で、一部に共通した遺伝子多型が存在することが明らかとなった。今回の知見は、複数疾患を標的にする新規創薬やドラッグリポジショニングへの応用が期待される」と述べている。
(小野寺尊允)