暑熱への曝露は、心血管疾患(CVD)やCVDによる死亡の危険因子の1つであることが示唆されている。そのため、地球温暖化とともに人口の高齢化が進めば、世界のCVDによる負担は増大すると予測される。こうした中、オーストラリア・University of AdelaideのJingwen Liu氏らは、暑熱曝露とCVDアウトカムの関連について検討するため、世界のさまざまな気候帯の地域で実施された観察研究266件のメタ解析を実施。気温が1℃上昇するごとにCVD関連死リスクは2.1%上昇し、CVD罹患リスクは0.5%上昇することが示されたとの解析結果をLancet Planet Health(2022; 6: e484-e495)に報告した。

気候帯の違いによる影響も検討

 暑熱曝露はあらゆる人々にとって健康リスクとなるが、とりわけ高齢者や心血管になんらかの問題がある人では暑熱に関連した死亡リスクや疾病リスクが高いことが報告されている。また、気温の上昇がCVD死リスクの上昇に関連していることは、これまでのメタ解析で一貫して示されている。ただし、気温上昇とCVD発症リスクとの関係については複数のメタ解析で関連がなかったとする一方で、65歳以上では正の関連が認められたとするメタ解析の報告もあり、結果が一貫していない。

 さらに、暑熱曝露とCVDリスクの関連には気候の違いが影響する可能性が指摘されているが、気候帯を考慮した上で両者の関連を検討した研究はなかった。そこでLiu氏らは今回、高温または熱波への曝露とCVDの関連についてシステマチックレビューとメタ解析を実施。気候帯の違いによる影響も検討した。

 まず、Liu氏らはPubMed、EMBASEなどのデータベースを用いて1990年1月1日~2022年3月10日に発表された文献を検索。事前に定めた基準を満たした生態学的時系列研究、症例クロスオーバー研究、症例集積研究のいずれかのデザインによる観察研究266件をメタ解析に組み入れた。高温や熱波への曝露に関連したCVDアウトカムの統合相対リスク(RR)はランダム効果モデルを用いて推定した。

 メタ解析に組み入れた研究には、ケッペンの気候区分に基づき分類すると4つの地域(熱帯、乾燥帯、温帯、大陸性)で実施されていた。

リスクが最も高いのは脳卒中による死亡

 解析の結果、気温が1℃上昇するごとにCVD関連死リスクは2.1%上昇し(RR 1.021、95%CI 1.020~1.023)、CVD罹患リスクは0.5%上昇することが示された(同1.005、1.003~1.008)。

 CVD関連死を原因別に見ると、気温の上昇に伴うリスクが最も高いのは脳卒中による死亡で(RR 1.038、95%CI 1.031~1.045)、次いで冠動脈疾患による死亡(同1.028、1.020~1.036)、心不全による死亡(同1.028、1.014~1.041)が続いた。

 CVD罹患リスクに関しては、気温の上昇に伴うリスクが最も高いのは院外心停止リスクで(RR 1.021、95%CI 1.010~1.032)、次いで不整脈および心停止(同1.016、1.009~1.022)が続いた。一方、高血圧性疾患については気温の上昇に伴い有意なリスクの低下が認められた(同0.949、0.928~0.970)。

 また、熱波はCVD関連死リスクの11.7%の有意な上昇に関連し(RR 1.117、95%CI 1.093~1.141)、熱波の程度が高まるほどリスクが上昇した。

 この他、暑熱への曝露に関連したCVD関連死リスクは65歳未満の群と比べて65歳以上の群で高いこと(P=0.03)、また有意差はなかったが、熱帯地域の住民では他の気候帯の住民と比べてCVD関連死が起こりやすいことなどが明らかになった。

 以上から、Liu氏らは「暑熱曝露は、さまざまな気候帯においてCVDリスクを高めることを裏付けるエビデンスが強化された」と結論。その上で、「温暖化が進み、高齢者人口の割合が増加すれば、気候上昇に関連したCVDアウトカム悪化例が増加する可能性がある。暑熱期の心血管イベント増大を抑制し、世界の暑熱に関連したCVD関連障害による疾病負担を軽減するためのエビデンスに基づいた予防策が必要だ」と主張している。

岬りり子