注意欠陥・多動性障害(ADHD)治療に用いられるノルアドレナリン(NA)作動薬は、アルツハイマー病(AD)にも有効である可能性が示唆された。英・Imperial College LondonのMichael C. B. David氏らは、神経変性疾患に対するNA作動薬の有効性に関するシステマチックレビューとメタ解析の結果をJ Neurol Neurosurg Psychiatry2022年7月5日オンライン版)に報告した。

1,811例を含むRCT 19件を対象に検討

 AD早期に発生する青斑核-NA系機能不全は、認知・神経精神学的症状の一因となる。これは潜在的な治療目標となりうるが、現在臨床でNA系を標的とした治療は行われていない。そこでDavid氏らは、ADHD、うつ、高血圧などの治療に用いられるNA作動薬のADの認知・神経精神学的症状に対する有効性を評価するため、システマチックレビューおよびメタ解析を行った。

 同氏らは、1980~2021年12月にMEDLINE、EMBASE、ClinicalTrials.govに掲載された、顕著な青斑核変性を伴う神経変性疾患〔AD、軽度認知障害(MCI)、パーキンソン病、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、進行性核上性麻痺〕患者の認知機能/神経精神学的機能に対するNA作動薬(アトモキセチン、メチルフェニデート、グアンファシンなど)の有効性を検討したランダム化比較試験(RCT)を検索し、19件・患者1,811例を抽出した。

 RCT 19件の治療期間は2~52週間、研究の対象人数は5~346例、平均年齢は60~85歳。試験薬で最も多かったのはNA再取り込み阻害薬(NRI)で9件、次いでα1遮断薬が4件、α2作動薬が3件、α2遮断薬が2件、β遮断薬が1件だった。

 RCT 19件の研究の質は、「良」が6件、「可」が7件、「不良」が6件と評価された。

包括的認知機能に小さいが有意な正の効果

 Mini-Mental State Examination(MMSE)、AD評価スケール-認知サブスケール(ADAS-Cog)を用いて判定された包括的認知機能(オリエンテーション/注意、記憶、言語、視空間能力)に対する効果が、10件・1,300例の研究で検討された。メタ解析の結果、ベースラインから治療終了時までの包括的認知機能における効果量は、ラセボに対しNA作動薬で小さいが有意な正の効果が示された〔標準化平均差(SMD)0.14、95%CI 0.03 ~0.25、P=0.01、I2=0%〕。質が「不良」の研究1件を除外後も、効果量に変化は認められなかった(同0.14、0.02 ~ 0.27、P=0.03、I2=11%)。この効果量は、コリンエステラーゼ阻害薬のADにおける効果(同0.38、0.28 ~ 41.1、I2=41.1%)とMCIにおける効果(同0.06、−0.08 ~ 0.20、I2=76%)の中間に位置していた。

 意味記憶における効果量については、プラセボに対しNA作動薬で中等度の有意な正の効果が示された(SMD 0.20、95% CI 0.01 ~0.39、P=0.04、I2=0%)。しかし質が「不良」の研究を除外後は、有意な効果は消失した(同0.14、−0.13 ~ 0.41、P=0.32、I2=38%)。

 また、注意、エピソード言語記憶、エピソード視覚記憶、実行機能・ワーキングメモリー、数唱課題(順唱・逆唱)に対するNA作動薬の有意な効果は認められなかった。

アパシーに大きな有意な効果

 一般的な神経精神学的症状、アジテーション、アパシーについてはRCT 8件のメタ解析を行った。その結果、アパシーに対するNA作動薬の大きな有意な効果が認められたが(SMD 0.45、95%CI 0.16~0.73、P=0.002、I2=58%)、研究の異質性が大きく、効果は限定的だった。しかし、質が「不良」の研究2件を除外後、効果は微増した(同0.49、0.10 ~ 0.88、P=0.01、I2=69%)。一方、アジテーション、一般的な神経精神学的症状に対するNA作動薬の有意な効果は認められなかった。

 以上から、David氏らは「既存のNA作動薬をAD患者に用いることで、包括的認知機能やアパシーの改善が期待できる可能性がある」と結論。その上で「今後、臨床研究を計画する上で、リスクを最小化し治療効果を最大化するために適切な集団を特定し、各薬剤の用量効果と他の治療との相互作用を検討する必要がある」と付言している。

(大江 円)