新型コロナウイルス禍で客足の激減に見舞われた大手居酒屋チェーンが、「横町」スタイルに活路を見いだそうとしている。食材を絞った特色ある小規模店が軒を連ねる形式は、メニューが豊富で団体客にも適したこれまでの「総合居酒屋」路線とは対照的。大人数の宴会が途絶えたのをきっかけに、友人や会社の同僚といった少人数での会食に照準を合わせる。
 エー・ピーホールディングスは8日、専門店を集めた「アルチザンアパートメント」の2号店を東京・赤坂のビジネス街近くにオープンする。駅前にあった主力業態「塚田農場」を、すしや焼き鳥など職人が腕を振るう三つの個別店に改装。ほぼすべてがカウンター席で、個室や団体客向けの席はない。
 狙うのは、久しぶりの会食で「せっかくなら少し良いものを」と店を探す少人数客だ。野本周作取締役は「コロナ禍でも続けてきた職人の育成と、こだわりの食材を生かした。今後は、多様化した飲食のニーズにいかに応えられるかが鍵になる」と話す。
 昨年末にワタミがオープンした複合店「こだわりのれん街」は、おでんなど七つの店を集めた。渡辺美樹会長兼社長は「コロナ後の居酒屋市場は半分になる」と想定。生き残りに向け、外食業界で焼き肉やすしといった専門店が好調なことに目を付けた。今後はこの新業態をメインブランドに育てようと意気込む。
 日本フードサービス協会によると、「まん延防止等重点措置」が3月下旬に全面解除された後も、居酒屋の売上高は団体客や二次会利用の減少が尾を引き、コロナ禍前の半分程度にとどまる。ワタミは従来型居酒屋のてこ入れ策として、稼働率の低い宴会席にレモンサワーの卓上サーバーを設置し、目新しさで集客を狙うなど試行錯誤する。繰り返される感染の波に翻弄(ほんろう)されながら、次の一手を模索する時期が続きそうだ。 (C)時事通信社