ドイツ・University Hospital RWTH AachenのPavel Strnad氏らは、肺線維症がありZ型遺伝子変異を有するα1‐アンチトリプシン欠乏症(AATD)患者16例を対象に、RNA干渉治療薬候補fazirsiranを複数の用量で投与し、有効性と安全性を検討する第Ⅱ相多施設非盲検試験AROAAT-2002を実施。その結果、全例で肝臓における変異型AAT蛋白(Z-AAT)の蓄積量が減少し、組織学的炎症所見の改善などが認められたと、N Engl J Med2022年6月25日オンライン版)に報告した(関連記事「α1‐プロテイナーゼインヒビターの実力」)。

PiZZ遺伝子型では変異型AAT蛋白が肝に蓄積し線維化を引き起こす

 AATDは、遺伝子変異によりAATの欠乏を来す常染色体劣性遺伝性疾患である。Z型遺伝子変異のうち、ホモ接合体のPiZZ遺伝子型を持つ患者ではZ-AATが肝細胞に蓄積し、進行性の肝疾患と線維化を引き起こす可能性がある。

 Strnad氏らは今回、PiZZ遺伝子型のAATDに対するfazirsiranの有効性と安全性を検討する第Ⅱ相多施設非盲検試験を実施した。

 対象は、肝線維症(F1~F3)を有するPiZZ遺伝子型のAATD患者16例(年齢18~75歳)。局所病理検査でF4線維症(肝硬変)と判定された者、アルコール常用者、喫煙者(12カ月以上毎日喫煙)は除外した。

 対象を3つのコホートに登録し、コホート1(4例)とコホート2(8例)にはfazirsiran 200mgを、コホート1b(4例)には100mgを投与。fazirsiranは1日目、4週目、その後12週ごとに皮下投与した。ベースライン時と投与後(コホート1および1bは24週目、コホート2は48週目)に肝生検を実施し、肝Z-AAT濃度および病理組織学的特徴を評価した。コホート1および1bの対象は24週目の施設訪問後、コホート2の対象は48週目の施設訪問後から延長期間に入った。

 主要評価項目は、液体クロマトグラフィー質量分析計を用いて測定した肝Z-AAT濃度の24週目(コホート1、1b)または48週目(コホート2)におけるベースラインからの変化とした。

Z-AATの蓄積量が中央値-83%

 解析の結果、全例で肝臓におけるZ-AATの蓄積量が減少した(24週目または48週目の変化率中央値-83.3%、95%CI -89.7~-76.4%)。肝Z-AAT濃度の低下は組織学的な炎症の改善と関連していた。

 血清Z-AAT濃度の平均値は、全コホートにおいてベースラインからの大幅な低下が見られ、投与6週目は200mgコホートで-90±5%、100mgコホートで-87±6%だった。52週にわたる血清Z-AAT濃度の持続的な低下幅は、100mgコホートより200mgコホートでわずかに大きかった。

 肝障害のバイオマーカーである肝酵素(ALT、AST、γ-GT)濃度は全コホートで低下した。ベースライン時の平均ALT濃度は、全コホートで正常範囲の上限を超えていたが、治療後16〜52週目までに低下した。ALT濃度が正常範囲の上限を超えていた全12例で、52週目には正常値が確認された。

 線維化の抑制(1段階以上)は、200mgコホートでは12例中7例(肝硬変患者2例を含む)で認められた。一方、100mgコホートでは3例とも線維化の抑制は認められなかった。

 試験や治療の中止につながる有害事象はなかった。重篤な有害事象(ウイルス性心筋炎、憩室炎、呼吸困難、前庭神経炎)が4例で報告されたものの、いずれも消失し治療を継続した。

 以上から、fazirsiranは肝臓および血清中Z-AAT濃度の大幅な低下と肝酵素濃度の低下と関連していた。

 今回の結果についてStrnad氏らは「全例で肝Z-AAT濃度が低下したにもかかわらず、線維化の抑制に一様に結び付かなかった。最終的な治療目標は線維化の予防または抑制であるため、より大きなサンプルとより長期の治療期間を設定したプラセボ対照臨床試験を実施し、線維化に対するfazirsiranの効果を確認する必要がある」と述べている。

今手麻衣