安倍晋三元首相が銃撃を受けて死去したことを受け、新潟青陵大大学院の碓井真史教授(社会心理学)は「悪者や強い人には何を言っても構わないという非常に乱暴な社会が事件の背景にある」と警鐘を鳴らし、「まずは相手に対する敬意を思い出すべきだ」と訴えた。
碓井氏は「一番悪いのは犯人だが、犯罪は社会を映す鏡。『犯人が悪い』だけで終わらせてはいけない」と指摘。事件を報じたネットサイトのコメント欄が炎上、閉鎖されたことを挙げ、「容疑者に対し、『さっさと死刑にしろ』という書き込みも見たが、事件を世の中の問題として社会で省みる必要がある」と話す。
インターネット交流サイト(SNS)が活発に使われるようになった現代について、「ネットやSNSは直接の原因ではないが、人間の遠慮しない乱暴な物言いを引き出してしまう」とし、「『アベ死ね』などの書き込みや外国人へのヘイトスピーチなど、以前であれば語られなかったような暴力的な言葉がうけるようになりつつある」と危ぶむ。
他人への乱暴な発言は、ネット上にとどまらず、現実の犯罪にも影響を与えているという。「発言のみならず、『悪者には何をしてもいい』と考える人が出てきても不思議ではない。かつての犯罪者は発覚を恐れることも多かったが、近年は逃げる気がなく、大胆な犯罪を起こそうという意識が目立つ」と分析した。
碓井氏は、事件後に容疑者らへの憎悪の感情が高まることを危険視し、「恐怖でおびえたり、怒りにわれを忘れたりするのは、テロリストの思うつぼだ。責任の押し付け合いやののしり合いなど、冷静さを失うようなことがあってはいけない」と強調した。
碓井真史(うすいまふみ)=1959年8月16日生まれ、東京都出身。道都大社会福祉学部教授などを経て、2006年4月から新潟青陵大大学院臨床心理学研究科教授。 (C)時事通信社
犯罪背景に「乱暴な社会」=社会心理学者が警鐘―安倍元首相銃撃

(2022/07/08 23:26)