米・University of ColoradoのNoah R. Johnson氏らは、同国のNational Alzheimer's Coordinating Center(NACC)による臨床データセットを後ろ向きに解析し、遅発性アルツハイマー病(AD)患者における抗うつ薬イミプラミンおよび抗精神病薬オランザピンの有効性を検討。その結果、両薬の使用者では他の抗うつ薬または抗精神病薬の使用者と比べて認知機能が有意に改善し、特にアポリポ蛋白(apo)Eε4アレル(apoE4)保有者で有意な改善が見られたとAlzheimers Res Ther2022; 14: 88)に発表した。

apoE4とAβの相互作用を特異的に阻害

 apoE4は遅発性ADの年齢以外で最も強い危険因子とされており、複数のADリスク上昇メカニズムが提唱されている。その1つは、apoE4がアミロイドβ(Aβ)ペプチドに結合し神経毒性オリゴマーおよびフィブリル重合形成を促進するというもので、Johnson氏らはイミプラミンおよびオランザピンがapoE4とAβの相互作用を特異的に阻害することを特定している。

 そこで同氏らは今回、NACCの臨床データセットからイミプラミン(40例)およびオランザピン(94例)の使用者と、それぞれの対照群としてイミプラミン以外の抗うつ薬(6,233例)およびオランザピン以外の抗精神病薬(798例)の使用者を抽出。Mini-Mental State Examination(MMSE)で評価した認知機能の経時的変化(改善度)を比較した。

正常に回復する割合は、apoE4保有者で7倍

 年齢および性を調整した解析の結果、MMSEスコアの改善度は対照群と比べてイミプラミン使用者(スコア年間上昇幅0.4186、95%CI 0.0017~0.8355、P=0.0490)およびオランザピン使用者(同0.4937、0.0451~0.9423、P=0.0310)で有意に大きかった。

 さらに、病態の移行について年齢および性を調整して解析した。

 イミプラミン使用群は対照群と比べ、ADから軽度認知障害(MCI)またはMCIから正常認知機能への回復(リバート)率が44.87%有意に高かった〔ハザード比(HR)1.4487、95%CI 1.2280~1.7092、P<0.0001〕。また、イミプラミン使用群のうちapoE4保有者は非保有者と比べ、正常認知機能からMCIまたはMCIからADへの進行(コンバート)率が有意に低かった(同0.4729、0.2256~0.9915、P=0.0474)。

 オランザピン使用群は対照群と比べ、有意ではないものの回復率が72.54%高かった(HR 1.7254、95%CI 0.7131~4.1746、P=0.2263)。apoE4保有者に限定すると、オランザピン使用群は対照群と比べて回復率が7.0936倍と有意に高かった(同7.0936、1.0589~47.5200、P=0.0444)。

 以上を踏まえ、Johnson氏らは「ADに対するイミプラミンおよびオランザピンの有用性が示された」と結論。「両薬には、apoE4によるAβ重合促進を強く阻害するという共通性の他に構造的、機能的、臨床的な類似性がないことから、apoE4によるAβ重合の促進がADの発症メカニズムにおいて重要なことが示唆される」と付言している。

(太田敦子)