超高齢社会を迎えた日本では、骨粗鬆症の推定患者数が1,300万人と人口の1割を超え、予防・治療法の確立が喫緊の課題となっている。岐阜薬科大学薬理学研究室の山田孝紀氏、深澤和也氏らの共同研究グループは、RNA解析およびマウス実験から、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)8阻害薬が間葉系幹細胞(MSC)を標的とする骨粗鬆症の新規治療薬となる可能性を見いだしたとStem Cell Reports2022年7月1日オンライン版)に発表した。

骨恒常性維持や破骨細胞機能との関連を解析

 骨リモデリングには破骨細胞と骨芽細胞が関与しているが、加齢や閉経などにより両者のバランスが崩れ、骨吸収が骨形成を上回ると骨粗鬆症が生じる。骨粗鬆症はロコモティブシンドロームなどの運動器障害や骨折のリスクを上昇させることから、より有効な予防・治療法の確立が求められている。

 近年、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞などに分化するMSCが破骨細胞の機能を制御すること、骨恒常性の維持に関与することが報告されている。また、加齢によりMSCの増殖能が低下すること、骨粗鬆症の閉経後女性ではMSCにおける骨形成能が減弱することが指摘されているが、詳細な機序は明らかでなかった。

 そこで共同研究グループは、まずシングルセルRNAシーケンシング(scRNA-seq)解析により、加齢がMSCに及ぼす影響を検討した。その結果、加齢に伴いMSCではCDK8の発現が増加することを確認した。

 次に、MSC特異的にCDK8を欠損させたマウスを作製し、CDK8と骨の恒常性維持との関連を調べたところ、野生型マウスに比べCDK8欠損マウスでは骨量の増加が認められた。またCDK8欠損マウスでは、破骨細胞の減少、機能低下なども観察された。すなわち、CDK8は破骨細胞による骨吸収を調節することで、骨の恒常性維持に重要な役割を果たしていることが考えられた。

 続いて、MSCにおけるCDK8阻害が破骨細胞機能を低下させる機序について、CDK8欠損MSCを用いて解析した。その結果、破骨細胞由来のRANKL発現を促進し、破骨細胞の機能を調整している転写因子STAT1の機能低下を確認。CDK8がSTAT1-RANKLシグナル経路の調整を介し、破骨細胞の機能を制御していると推察された()。

図. CDK8はSTAT1-RANKLシグナル経路を調節することで骨量を制御

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(岐阜薬科大学プレスリリースより)

 共同研究グループは昨年(2021年)、CDK8阻害薬KY-065の膠芽腫(グリオブラストーマ)に対する有効性を報告している(Oncogene 2021; 40: 2803-2815)。今回の知見を踏まえ、KY-065の骨粗鬆症に対する有効性を検証する実証実験を実施。骨粗鬆症モデルマウスに同薬を投与したところ、骨粗鬆症で見られる破骨細胞の過剰な活性化と骨量の減少が大幅に抑制され、骨粗鬆症治療薬となりうることが示唆された。

 以上の結果を踏まえ、共同研究グループは「MSCにおけるCDK8は、骨粗鬆症の有望な治療標的になりうることを細胞・生体レベルで明らかにした」と結論。「今回の知見は骨粗鬆症に限らず、破骨細胞活性化異常や骨組織の恒常性維持の破綻によって引き起こされる運動器疾患および骨系統疾患に対する新たな治療法を提供し、アンメットメディカルニーズの解消につながる」と期待を寄せている。

(小野寺尊允)