術後心房細動(POAF)で心不全による入院リスクが高まることが示された。米・Weill Cornell MedicineのParag Goyal氏らは、心臓/非心臓手術を受けた300万超例を対象にPOAFと心不全による入院との関係を検討した結果をEur Heart J(2022年6月28日オンライン版)に報告。「POAFは、無症候性心不全患者および心不全リスクが高い患者を特定するマーカーとなりうることが示唆された」と指摘した。
心臓POAFで心不全による入院リスクが33%上昇
POAFが脳卒中や死亡に関連することは知られているが、その後の心不全による入院との関連は明らかでなかった。そこでGoyal氏らは、2016~18年に米11州の非連邦政府系救急病院を退院した全保険者診療報酬請求データから、18歳以上で手術を受けた心不全既往歴がない患者300万6,390例を抽出しPOAFと心不全による入院との関係を検討した。
対象の平均年齢は57.0歳、女性が59.9%、追跡期間は中央値で1.7年。最も多かったのは筋骨格系および結合組織系に対する手術で全体の35.8%を占めていた。
対象のうちPOAFを発症したのは3万8,128例(1.3%)、心房細動(AF)既往歴があったのは20万1,101例(6.7%)。
POAF発症例(平均年齢70.7歳)は非AF例(同55.6歳)よりも高齢で、AF既往例(同73.8歳)に比べてやや若かった。POAF例とAF既往例は非AF例に比べて、高血圧、糖尿病、虚血性心疾患、心臓弁膜症などの心血管疾患を有する割合が高かった。3年間の累積死亡率は、POAF例が4.00%(95%CI 3.75~4.27%)、AF既往例が4.64%(同4.51~4.76%)、非AF例が1.56%(同1.53~1.58%)だった。
心臓手術を受けたのは7万6,536例で、POAF例は1万4,365例(18.8%)、AF既往例は1万2,481例(16.3%)。
心臓手術を受けた患者の心不全による1,000人・年当たりの入院率は、POAF例が66(95% CI 62~69)、AF既往例が98(同94~103)、非AF例が44(同43~46)で、心不全による累積入院率は、AF既往例よりもPOAF例で低かったが、非AF例と比べPOAF例で高かった。
Cox比例ハザードモデルを用いて年齢、性、人種、保険加入の状態、既往歴、BMIなどを調整後、心臓手術を受けた患者の心不全による入院率は非AF例に対しPOAF例で33%〔ハザード比(HR)1.33、95%CI 1.25~1.41〕、AF既往例で91%(同1.91、1.80~2.02)高かった。AF既往例に対しPOAF例では心不全による入院リスクが有意に低かった(同0.70、0.66~0.75)。術後1年以内に発生した心不全による入院を除外してもPOAFとの有意な関連は認められたが、関連の強さは低下した(同1.15、1.01~1.31)。
非心臓POAFで心不全による入院リスクが2倍に
非心臓手術を受けたのは292万9,854例で、POAF例は2万3,763例(0.8%)、AF既往例は18万8,620例(6.4%)だった。
非心臓手術を受けた患者の心不全による1,000人・年当たりの入院率は、POAF例が66(95%CI 64~69)、AF既往例が85(同84~86)、非AF例が17(同17~17)だった。心不全による累積入院率は、AF既往例よりもPOAF例で低かったが、非AF例と比べPOAF例で高かった。
Cox比例ハザードモデルによる解析の結果、非心臓手術を受けた患者の心不全による入院は、非AF例に対しPOAFで2倍(HR 2.02、95%CI 1.94~2.10)、AF既往で2.3倍(同2.32、2.28~2.36)であった。AF既往例に対しPOAF例では心不全による入院リスクが有意に低かった(同0.84、0.81~0.88)。術後1年以内に発生した心不全による入院を除外してもPOAFとの有意な関連は認められたものの、関連の強さは低下した(同1.49、1.38~1.61)。
以上から、Goyal氏らは「心臓/非心臓手術を受けた心不全既往歴のない患者において、POAFは心不全による入院と有意な関連が認められた。この結果からPOAFが予後に悪影響を及ぼす証拠が強化され、POAFが無症候性心不全患者および心不全リスクが高い患者を特定するためのマーカーとなりうることが示唆された」と結論。「患者と医師はPOAF発症後の心不全症状にいっそう警戒する必要がある。POAF例では、高血圧、糖尿病、動脈狭窄など、その他の心不全危険因子に対してより積極的な治療が必要になる」と付言している。
米・Smidt Heart InstituteのMelissa E. Middeldorp氏とChristine M. Albert氏は同誌の付随論評(2022年6月28日オンライン版)で「POAFは手術に対する一過性の反応だけでなく、術後の急性AFや心不全による入院などの心血管関連障害の原因となる潜在的な心房・心筋の構造変化を反映している可能性がある。患者が有する危険因子プロファイルをより深く理解することで、心臓/非心臓手術後の予後改善と入院減少のために、POAFの初期症状に対する早期の積極的な介入を提唱できるかもしれない」と述べている。
(大江 円)