急性冠症候群(ACS)患者における睡眠障害は、予後不良との関連が指摘されている。スイス・University of ZurichのRoland von Känel氏らは両者の経過や関連因子を検討。結果を、PLoS One2022; 17: e0269545)に報告した。

ACS患者180例を12カ月追跡

 ACS患者の約半数で見られる睡眠障害。症状は発症後数日が最も深刻で、1〜2カ月経過後に改善するという。しかし、長期にわたる追跡調査は不十分であることなどから、von Känel氏らはランダム化比較試験のデータを用いてACSに併発する睡眠障害の経過や両者の関連因子について検討した。

 対象は、ストレス予防介入試験(MI-SPRINT)に登録された18歳以上のACSによる入院患者190例のうち、睡眠障害に関するデータを有する180例(平均年齢59.6歳、男性81.7%)。急性ST上昇型心筋梗塞(STEMI)または非STEMIで、循環動態が安定していることなどを組み入れ条件とし、緊急冠動脈バイパス術を受けた患者や、重度の併存疾患を有する患者などは除外した。

 睡眠障害は入院時、3カ月時、12カ月時にインタビュー形式でジェンキンス睡眠スケール4(JSS-4)を用いて評価した。JSS-4は過去1カ月間の入眠困難、夜間覚醒、睡眠維持困難、回復睡眠の各頻度を0点(全くなし)、1点(1〜3日)、2点(4〜7日)、3点(8〜14日)、4点(15〜21日)、5点(22〜31日)で評価する。一般人口では20点満点中5点以上が睡眠障害に該当する。

女性やうつ病既往などが独立した関連因子に

 180例におけるJSS-4合計スコア5点以上の睡眠障害の割合は、入院時が56.7%、3カ月時が49.3%(146例)、12カ月時が49.5%(101例)だった。

 ランダム線形混合効果モデルを用いて、年齢や性、生活状況などを調整しACSとJSS-4スコア高得点との関連を検討した。その結果、12カ月時点の睡眠障害の独立した関連因子は時間経過〔効果推定量−0.211、標準誤差(SE)0.074、P=0.005〕、女性(同0.526、0.206、P=0.012)、死に対する恐怖(同0.074、0.026、P=0.004)、無力感(同0.062、0.029、P=0.034)、うつ病の既往(同0.422、SE 0.171、P=0.015)が抽出され、時間経過以外は睡眠障害の独立した関連因子であった。

 以上から、von Känel氏らは「ACSによる入院から3カ月後までに睡眠障害は減少する傾向にあるものの、1年にわたり観察されており、女性、うつ病の既往、死への恐怖や無力感といった苦悶が独立した関連因子である可能性が示唆された」と結論。今回の知見は、今後の介入試験においてACS患者の睡眠障害予防に役立つとの見解を示している。

松浦庸夫