2021年(昨年)以降、新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)ワクチンの接種が進められてきたが、接種による免疫能の変動や被接種者ごとの違い、体液性免疫および細胞性免疫の差異などは解明されていなかった。そこで浜松医科大学臨床検査医学講座教授の前川真人氏らは、同大学病院の職員50人を対象に初回のSARS-CoV-2ワクチン接種前から3回目の接種後まで約1年間に及ぶ免疫能を分析し結果を公表した。なお、詳細はVaccines(2022; 10: 1050)に掲載されている。
約1年間に採決を11回実施
今回の研究では、対象が昨年3月に初回のSARS-CoV-2ワクチンを接種する前から、同年4月に2回目のワクチンを接種し、今年1月に3回目のワクチンを接種した後2週間までに11回採血を実施。2種の測定試薬により抗体価と中和抗体を測定して体液性免疫を、抗原特異的免疫応答を解析するELISPOT法により細胞性免疫を分析した。
また、日常検査として生化学検査、血液学検査を行うとともに、ワクチンの副反応および体調も調査した。なお、接種したワクチンは全てファイザー製であった。
体液性免疫、細胞性免疫は相補関係で後者の方が長く持続
分析の結果、SARS-CoV-2ワクチンの接種により体液性免疫、細胞性免疫の免疫能(抗体価)は2回目の接種でともに大きく上昇したが、その後緩やかに下降し、3回目の接種で再び大きく上昇した(図)。
図. 検討対象の抗体価の推移(緑色は45歳以上、橙色は45歳未満)
(浜松医科大学プレスリリースより)
抗体価の変動(上昇と減衰)は2種の測定試薬で異なったが、ワクチン接種後の経過時間を合わせると体液性免疫と細胞性免疫は極めて良好な相関を示し、中和抗体とも良好な相関を示した。
さらに、抗体価に性差はなかったが年齢差があり、高齢者で低い傾向が見られた。加えて、細胞性免疫は高齢者で高い傾向が見られたため、体液性免疫と細胞性免疫は互いに補完していると推察された。体液性免疫に比べ細胞性免疫が長く持続する傾向も示された。
前川氏らは、「今回の検討により、免疫能の高低と関連する新しい指標の策定や新たな検査法の開発が期待される。今後は、SARS-CoV-2の変異株や組み換え体などに対する免疫能についても検討していきたい」と述べた。同氏らは現在、3回目のワクチン接種後における免疫能を継続して調査しており、経過については後日報告するという。
(陶山慎晃)