成人の入院患者を対象とした、治療抵抗性統合失調症治療薬クロザピンに関連する心筋炎・肺炎予防のための国際ガイドライン(以下、国際GL)が最近公開された(Pharmacopsychiatry 2022; 55: 73-86)。策定には日本を含む50カ国/地域から医師104人が参加しており、人種や代謝状態に応じて6種類の個別化用量調整スケジュールを提示。クロザピン誘発性心筋炎のリスクが最も高い投与開始から少なくとも4週の間に、白血球数(WBC)に加えC反応性蛋白(CRP)値を毎週測定することを推奨している。筆頭著者で米・Eastern State HospitalのJose de Leon氏らは、国際GLのレビューをGen Psychiatr2022; 35: e100773)に発表した(関連記事「クロザピン誘発性心筋炎、臨床的特徴は?」)。

世界人口の60%で米国推奨用量より減量の対象

 de Leon氏らによると、無顆粒球症に関連するクロザピンの毒性や致死性は世界的に懸念されている。WBCモニタリング導入後は死亡例が減少しているものの、クロザピンのプロトコルおよび添付文書には用量調整中の心筋炎・肺炎の予防法が示されていない。

 世界保健機関(WHO)のデータベースによると、2000~19年に世界で報告されたクロザピンに関連する無顆粒球症の相対致死率は1%(433/2万9,586例)だったのに対し、心筋炎は11%(484/4,536例)、肺炎は30%(1,922/6,506例)に上る。

 統合失調症治療薬のクロザピンやオランザピンは、主にクロザピンの代謝経路であるシトクロム(CYP)P450 1A2により代謝される。アジア人や東アジア人の子孫であるネイティブアメリカンは、白人よりもCYP1A2活性が低く、治療反応を得るために必要なクロザピン投与量が少ない。世界人口の60%以上で、米国でのクロザピン推奨用量よりも減量する必要がある対象とされる。

 日本の用量調整プロトコルでは、特にクロザピンのクリアランスを低下させる抗てんかん薬バルプロ酸との併用や、肥満などの危険因子を有するアジア人の患者には安全ではないと指摘している。

人種、性・喫煙、代謝活性欠損(PM)を考慮

 国際GLは入院患者を対象に作成され、新たな推奨事項として①個別化された用量調整、②CRP値の測定、③血中濃度に基づく用量予測ーの3項目が含まれる。

 クロザピンの薬物動態に関する包括的な文献レビュー(Psychother Psychosom 2020; 89: 200-214)に基づき、クロザピン・クリアランスは、血漿濃度350ng/mLの最小治療域に到達するために必要な用量によって測定できることを提案。クロザピン・クリアランスに影響を及ぼす人種、性と喫煙の状況、代謝活性欠損者(Poor Metabolizer;PM)か否かを考慮して、用量調整のスケジュールと維持量を決定する。

 具体的には、①アジア人/ネイティブアメリカン②欧州人/西アジア人③黒人(米国)ーをそれぞれPM群と非PM群に分け、6種類の用量調整スケジュールを提示。クロザピンPMとして、経口避妊薬またはバルプロ酸の併用、肥満、オランザピンなどの抗精神病薬服用(最小治療域到達後の中止方法に関する推奨事項を提示:J Clin Psychiatry 2022; 83: 22ac14500)を挙げている。

 アジア人/ネイティブアメリカンの目標量は、PM群で75~150mg/日、非PM群で175~300mg/日。開始用量は、それぞれ6.25mg/日、12.5mg/日。週ごとの増量スケジュールを示し、4週目に目標用量に到達することを目指す。用量調整が早過ぎる可能性があるという警告(Cアラート)として、7、14、21日目のクロザピン濃度(クロザピン濃度/用量比を用いて推定)の上限が示されている。

 エストロゲンはCYP1A2を阻害し、喫煙はCYP1A2を誘導するため、女性の非喫煙者は最低用量、男性の喫煙者は最高用量とした。用量調整では、21日目に非喫煙者の女性は目標用量(PM群の場合75mg/日)に到達し、その他の患者は目標用量(同75~150mg/日)を選択し漸増することで、定常状態濃度を1週後の第4週に測定すよう設計されている。

CRP値は4週間、WBCと同時測定を推奨

 CRP値については、クロザピン投与開始から少なくとも4週間、ベースライン時および毎週、WBCと同時に測定することを推奨している。WHOのデータベースでは、クロザピン誘発性心筋炎例の84%(1,309/1,560例)が1カ月目に診断され、さらに5%(82/1,560例)が2カ月目に診断された。

 クロザピン誘発性の心筋炎以外の炎症は、急速な用量調整中に漿膜炎、肺炎/肺胞炎、肝炎、膵炎、腎炎、大腸炎、皮膚異常などが起こりうる。クロザピンの用量の急速な増量は、鎮静、流涎および嚥下障害の併存で誤嚥性肺炎を起こしやすい。日本人のクロザピン漸増患者152例を対象としたコホート研究では、最初の4週間に発熱が38%、胸膜炎が13%、心筋炎が5%、間質性肺炎が1%に確認された(Psychiatr Q 2021; 92: 703-713)。

 クロザピンの個別化用量調整スケジュールおよびCRPモニタリングの使用はクロザピン誘発性炎症合併症の多くを予防することが可能にし、発熱およびCRP値上昇のみが存在する場合、トロポニン値上昇、心臓症状または心エコー異常など他の徴候を早期に特定するのに役立つ可能性があるとしている。ただし、遺伝的なクロザピンPMには先述の用量調整は安全でない可能性があるという。

 理想的には、クロザピン服用者では3週目に目標用量に達した後、4週目に定常状態濃度を5~7日待つとその濃度を利用して350ng/mLのクロザピン濃度に達するのに必要な治療用量を予測できる。

 一方、クロザピンは、極めて低用量または治療用量以下(血漿濃度150ng/mL以下)では線形動力学に従わないことから、これらの濃度は最終用量の推定に使用できないという。そこで、4週目のトラフ定常状態濃度がクロザピンの維持投与量の推定に適しているとしている。

 de Leon氏らは「クロザピンの毒性と致死性は、広く知られている無顆粒球症だけでなく、心筋炎、肺炎にとどまらない可能性がある。成人の入院患者向けに緩徐で個別化されたクロザピンの用量調整を使用することで、これらを予防する新たな国際GLが公開された。クロザピン維持療法のために今後策定されるGLは、便秘、発作および不整脈など、他のクロザピンの薬物有害反応関連死の予防法に取り組む必要がある」とまとめている。

(坂田真子)