急性虚血性脳卒中(AIS)患者に対する迅速な静脈内血栓溶解療法(IVT)について、中国では院内における所用時間の短縮を評価するランダム化比較試験(RCT)はあまり行われていないという。同国・浙江大学第二病院のWansi Zhong氏らは、病院到着からIVTを開始するまでの時間(door-to-needle time;DNT)を評価項目として、ビデオカンファレンスを用いた多成分介入法による効果を検証し、PLoS Med(2022; 19: e1004034)に報告した。
脳卒中ユニット有する22施設・AIS患者1,600例超で検討
現在、米国心臓協会/米国脳卒中学会のガイドラインでは、IVTにおけるDNTは60分以内が推奨されている。Zhong氏らによると、2018年の中国における脳卒中死亡は10万人当たり149.49人と推定されているが、2011年の平均DNTは116分で、60分以内の割合は17.8%にすぎなかったという。
そこで同氏らは、合併症管理や禁煙治療、服薬アドヒアランスなどの改善・向上を目的に、複数の介入を組み合わせたBehavior Change Wheel(BCW)という新たなアプローチ法に着目。AIS患者に対するDNT 60分以内の実施割合を増加させるため、ビデオカンファレンスを用いたBCWによる医師の手技向上の有効性を検証する、非盲検多施設クラスターRCT(Improving In-hospital Stroke Service Utilization;MISSION)を行った。
脳卒中部門または専門医および看護師が所属しているなどを施設の組み入れ基準とし、年間の血栓症例が20例未満の施設は除外した。登録されたAIS患者は1,634例で、介入群987例(平均年齢69歳、女性41.6%)、対照群647例(同70歳、36.8%)。AIS発生後4.5時間以内のIVT開始例に限定した。各群はビデオカンファレンスを用いた多成分介入群と、通常ケアを行う対照群に1対1で割り付けた。
介入群でDNT 60分以内の達成割合高く、機能予後も良好
2019年1〜12月に、介入群に対して6項目(説得、環境整備、動機付け、訓練、教育、模範)で構成される1回2時間のビデオカンファレンスを毎月実施。例えば、説得や模範はDNTの短縮や見習うべき手本をテーマに、医師・研究者間のコミュニケーションを円滑化し医師の行動を促すことを目的として、DNTの設定、時間計測とフィードバック、ディスカッション、時間短縮に向けたプレゼンテーションなどが行われた。
AIS患者に対するDNT 60分以内の実施割合を評価した。その結果、介入群82.0%、対照群73.3%と、介入群とDNT 60分以内の実施に有意な関連が認められた〔オッズ比(OR)1.77、95%CI 1.17〜2.70、クラスター内相関指数(ICC) 0.04、P=0.007〕。
また、modified Rankin scale(mRS)を用いて、IVT実施90日後の良好な機能アウトカムを評価したところ、良好(mRSスコア0〜1点)な患者の割合は対照群50.4%、介入群55.6%だった(調整OR 1.38、95%CI 1.00〜1.90、ICC 0.01、P=0.049)。
今回の結果から、Zhong氏は「ビデオカンファレンスを用いた介入群では、対照群に比べわずかながらも臨床的に意義のあるDNTの短縮がもたらされ、AIS患者の機能アウトカムもより良好だった」と結論。「脳卒中治療において新たな手法による時間短縮およびアウトカム改善効果が示唆され、他の途上国にも意味のあるデータだ」との見解を示している。
(松浦庸夫)