安倍晋三元首相(67)が銃撃され死亡した事件で、安倍氏が救急搬送された奈良県立医科大付属病院(同県橿原市)で治療に当たった同病院救命センター長の福島英賢教授が14日までに時事通信のインタビューに応じ、当時の様子について「生存する可能性は低く、非常に厳しい状況だった」と振り返った。
 福島氏はテレビのニュースで事件を知り、要請を受ける前から医師ら10人でチームを組んで受け入れ準備を進めていた。ドクターヘリ内で気道確保などの蘇生処置がされたが、午後0時20分に病院に到着した際、安倍氏は既に心肺停止。これまで福島氏が診てきた患者の中でも特に悪い状態だったという。しかし「特別な思いがあったわけではない。救命措置はやることは決まっているので、手順に沿ってやるだけだった」と、目の前の患者を救うことに全力を尽くした。
 救命に当たったチームの人数は最終的に41人まで増えたが、治療は困難を極めた。心肺停止状態だったため、麻酔なしですぐに開胸手術を実施。体温は通常より低く、傷の深さは心臓まで達していた。大動脈付近の血管は制御できたが、血液が凝固する力を失っていたため、血が止まらない状況だったという。輸血には2~3人分の血液に相当する100単位(約13リットル)を使った。病院に保存されていた量では足りなかったため、赤十字血液センター(同県大和郡山市)に追加を依頼した。
 懸命な治療にもかかわらず心肺機能は再開しなかった。福島氏は病院に駆け付けた妻の昭恵さんに、これまでの治療の経緯を話し、「これ以上(治療しても)難しいです」と説明。安倍氏は午後5時3分に亡くなった。司法解剖の結果、死因は左右鎖骨下の動脈損傷による失血死だった。
 「外傷による心停止の生存率は極めて低く、非常に厳しかった」と福島氏は語る。一命を取り留めたとしても、意識障害などが残る可能性があったという。安倍氏が亡くなったことに、福島氏は「本当に残念です」と声を振り絞り、事件についても「そういうことが起きてしまったこと全てが残念です」と語った。 (C)時事通信社