米・Washington University School of Medicine in St. LouisのShruti Gupta氏らは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染疑い後、3~12カ月間持続する嗅覚障害(OD)のある成人51例を対象に、生理食塩水鼻腔洗浄(SNI)へのテオフィリン添加の有効性と安全性を検討する第Ⅱ相三重盲検プラセボ対照ランダム比較試験(RCT)SCENT2を実施。その結果、テオフィリン鼻腔洗浄の有効性は、被験者の主観的評価によって示唆されたものの、決定的なエビデンスはないとJAMA Otolaryngol Head Neck Surg(2022年7月7日オンライン版)に報告した。
1日2回朝晩に鼻洗浄を6週間実施、CGI-Iなどで評価
テオフィリンはホスホジエステラーゼ阻害薬であり、重要なセカンドメッセンジャーである環状アデノシン一リン酸(cAMP)および環状グアノシン一リン酸(cGMP)の分解を阻害し、神経嗅覚シグナル伝達および感覚軸索再生を促進するとされている。これまで、複数のウイルス感染後のOD患者を対象とした研究では、テオフィリンの鼻内投与が嗅覚に関する主観評価を有意に向上させたことが報告されている。
Gupta氏らは今回、SARS-CoV-2感染後に生じた慢性ODに対する、SNIへのテオフィリン添加の有効性と安全性の評価を目的に、SCENT2試験を実施した。
対象は、SARS-CoV-2感染が疑われた後にODが3〜12カ月間持続する成人51例〔平均年齢46.0±標準偏差(SD)13.1歳、女性36例(71%)〕。1日2回朝晩にテオフィリン400mgを添加した生理食塩水でSNIを行う群(テオフィリン群、26例)と、乳糖500mgを添加した生理食塩水でSNIを行う群(プラセボ群、25例)にランダムに割り付け、6週間実施した。2021年3〜8月に登録、21年10〜12月にデータを解析した。
ベースライン時のODの有無は、ペンシルバニア大学嗅覚識別テスト(UPSIT)のスコアが40点満点中、男性で33点以下、女性で34点以下と定義。除外基準は、SARS-CoV-2感染前のODの既往、鼻ポリープの診断歴、副鼻腔または前頭蓋底手術歴、神経変性疾患、発作歴または不整脈歴などとした。
主要評価項目は両群の反応者率の差で、治療後の臨床全般印象改善度〔CGI-I:嗅覚能力の程度(ない、悪い、まあまあ、良い、非常に良い、素晴らしい)の6段階で評価〕で改善が見られた場合と定義し、臨床上意義のある最小変化量(MCID)は群間差25%、95%CIは5〜55%と定義した。
副次評価項目は、UPSIT、嗅覚障害質問票、健康関連QOL尺度(SF-36)、および新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連の質問項目における変化とした。UPSITについては、4点以上の増加は症状の臨床的に有意な改善と見なした。
テオフィリン群で改善も、臨床的に意義のある変化は認められず
解析の結果、6週間後にCGI-Iで改善を報告したのは、テオフィリン群の13例(59%)に対し、プラセボ群では10例(43%)で、絶対差は15.6%(95%CI ー13.2~44.5%)と、臨床的に意義のある改善は認められなかった。
6週間後におけるUPSITスコアのベースラインからの変化量中央値は、テオフィリン群で3.0点(95%CI ー1.0~7.0点)、プラセボ群で0.0点(同ー2.0~6.0点)で、いずれも臨床的に有意な改善は認められなかった。
6週間後のUPSITスコアの変化量が4点以上増加したのは、テオフィリン群で22例中11例(50%)、プラセボ群で23例中6例(26%)だった。群間差は24%(95%CI ー4%~52%)とテオフィリン群で多かったものの、混合モデル解析の結果、両群に有意差は認められなかった。安全性について問題は認められなかった。
以上から、COVID-19関連のODに対するSNIへのテオフィリン添加の有効性は、主観的評価では示唆されたものの、決定的なエビデンスは認められなかった。Gupta氏らは「テオフィリン鼻腔洗浄の有効性を確立するには、より大規模なRCTが必要である」としている。
(今手麻衣)