難治性呼吸器疾患である特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)は自己免疫が重要な役割を担うとされるが、因果関係や予後・治療における意義は不明だ。英・Heart and Lung Research InstituteのRowena J. Jones氏らは、大規模横断コホートを用いて、免疫表現型解析や自己抗体濃度に基づくクラスター分析など複数の方法により両者の関係性を検討。IPAH患者では免疫表現型の異常、免疫グロブリン(Ig)G3およびインターロイキン(IL)-21濃度の上昇に加え、自己抗体濃度の上昇が見られ、疾患と強く関連していることが示されたとAm J Respir Crit Care Med(2022; 206: 81-93)に発表した。

免疫表現型の異常とIgG3、IL-21の上昇を認める

 IPAHは肺動脈性肺高血圧症(PAH)の一種で、肺動脈の血圧が異常に高まることで心拍出量の低下や右心不全を来す。PAHは①IPAHまたは遺伝性PAH(HPAH)、②膠原病に伴うPAH、③門脈圧亢進症に伴うPAH、④薬物誘発性のPAH―などに分類されるが、IPAHの原因については明らかでない。

 IPAHには膠原病および関連疾患である全身性硬化症、全身性エリテマトーデスシェーグレン症候群に伴うPAHと重複する症状が複数見られることから、Jones氏らはIPAHと自己免疫との関連に着目、血清検査により両者の関係性を検討した。

 まず、IPAH患者群26例(平均年齢41.3±10.2歳)と年齢・性をマッチングした健康人(対照群)29例の血清から白血球を抽出、フローサイトメトリーを用いて免疫表現型解析を行った。

 その結果、対照群と比べ、IPAH患者群ではB細胞において形質芽細胞(CD3-CD19+CD38+IgD-)、ダブルネガティブB細胞(CD3-CD19+CD38-IgD-)の割合が有意に多く(ともにq=0.0303)、non-switchedメモリーB細胞(CD3-CD19+CD27-IgD+)とswitchedメモリーB細胞(CD3-CD19+ CD38+ CD27+IgD-)は有意に少なかった(ともにq=0.0303)。また、T細胞においては遊走制御性T細胞と濾胞性ヘルパーT(Tfh)細胞の割合が有意に多く(順にq=0.0009、0.0402)、CCR4制御性T細胞の割合は有意に少なかった(q=0.0402)。

 同氏らはさらに、先述の検本から10例をランダム抽出し、血漿中のIg濃度を測定した。その結果、IPAH患者ではIgG3濃度が上昇しており(q=0.0392)、B細胞のIg応答において重要な役割を担うIL-21 濃度も有意に上昇していた(P<0.0001)。

 これらの結果から、IPAH患者では免疫表現型の異常が認められ、自己免疫の病理が存在することが示唆された。

自己抗体濃度と血行動態・生命予後が関連

 次にJones氏らは、英国のIPAHおよびHPAHの大規模横断コホート研究から患者群473例(IPAH、HPAH、肺静脈閉塞疾患、肺毛細血管腫症)と健康対照群946例を選出。自己抗体の保有率について、一般的な19種の自己抗体パネルを用いて比較した。解析の結果、患者群と対照群で10種の抗体濃度に有意な差が示され、うち9種はPAH患者で高値だった。

 自己抗体濃度に基づき、高自己抗体型、中間的自己抗体(リボ核蛋白質のみ高発現例)型、低自己抗体型の3群にクラスタリングをした。PAH患者群における各クラスターの比率は、高、中間、低の順に、27.5%、11.2%、61.3%、だった。年齢と性の分布にクラスター間で差はなかった。

 さらに、同氏らが3種のクラスターで比較した結果、肺血管抵抗(PVR)と心拍出量はクラスター間で大幅に異なり、高自己抗体型では他のクラスターに比べ有意に不良であることが示された(中間、低の順にq=0.0063、0.018)。肺動脈楔入圧と平均肺動脈圧はクラスター間で有意な差はなかった。

  Kaplan-Meier解析では、診断後20年の生命予後は高自己抗体型が最も良好だった。治療、性、診断時年齢を調整後も低自己抗体型と死亡リスクの有意な関連が認められた(オッズ比1.9、95%CI 1.17~3.0)。

BMPR2に免疫グロブリンが反応

 骨形成蛋白質2型受容体(BMPR2)の遺伝子変異はPAHの原因として知られているが、 Jones氏らはBMPR2がIPAHにおける自己抗体免疫応答において重要な役割を担うと仮定。プロテオ―ム解析、ELISA法を用いてBMPR2のIg応答性を検討したところ、少数ではあるもののBMPR2応答性が高いPAH患者群でIg応答の増強を検出した。

 同氏らは「大規模横断コホート研究を含む包括的な研究により、IPAHと自己免疫の関連について強固なエビデンスが示された。自己免疫は血行力学的パラメータと臨床転帰の両方に関連しており、BMPR2に対するIg応答の増強が認められたことから、血管機能障害を引き起こす重要な経路であることが示唆される。今後、長期的な変化を検討する臨床試験においては、自己免疫と炎症による層別化を考慮する必要がある」と結論している。

(編集部)