人生の最終段階における医療・ケアについて、患者、家族、医療・ ケアチームで繰り返し話し合い、患者自身が医療・ケアに関する意思決定ができるよう支援するアドバンス・ケア・プランニング(ACP)。重要なのは、医療・ケアに対する患者の意向の変化を家族らが長期間把握し続けられるかどうかだが、これまで小児患者では検証されていなかった。米・University of MinnesotaのJennifer S. Needle氏らは、青少年のがん患者252例を対象にACPの長期的な有効性をランダム化比較試験(RCT)で検討。対照群に比べACP導入群では、患者と家族のACP一致率が有意に高く、1年間効果が持続していたとJAMA Netw Open(2022; 5: e2220696)に報告した。
FACE-TCは3段階のセッション
2016年7月16日~19年4月30日に、米国の小児病院4施設で登録された14~21歳のがん患者(平均年齢17歳、男性43%)とその家族(同43歳、17%)の252組のうち基準を満たした126組を、10歳代のがん患者向けACPであるFACE-Centered Advance Care Planning for Teens with Cancerを導入するFACE-TC群(83組)と標準治療群(43組)に2:1でランダムに割り付けた。
全対象者に標準治療および小児版ACPの小冊子を配布した上で、FACE-TC群には週に1回60分のセッションを3回受けてもらった。各セッションの内容は次の通り。
- セッション1:Lyon Family-Centered Advance Care Planning Survey(JAMA Netw Open 2020; 3: e205424)を患者と家族で別々に実施
- セッション2:自身のがんや合併症リスク、死、終末期医療に関する要望への理解について探るべく、患者主導で家族と話し合う
- セッション3:米国のほとんどの州法で定められている事前指示書である「5つの願い」(①私が意思決定をできなくなったときに代わって意思決定をしてほしい人、②私が受けたいあるいは受けたくない医療行為、③私が心地よく過ごせるようにするためにしてほしいこと、④私が求める介護やケア、⑤私が愛する人達に知ってもらいたいこと)を、患者と家族の双方で記入する
主要評価項目は患者と家族のACP一致率とし、セッション2終了後、3カ月後、6カ月後、12カ月後、18カ月後にStatement Treatment Preferencesにより評価した。Statement Treatment Preferencesとは、がんに特徴的な4つの臨床状況(①入院期間が長期で生存の可能性が低い、②延命治療による重篤な副作用で生存期間が3カ月以内、③身体機能障害、④重度の認知機能障害)に対し、「できるだけ長く生きられるように全ての治療を継続する(何があっても生き続けることが最も重要)」「生かすための努力を全て中止する(私が考える「よく生きる」ことは、命の長さよりも大切なこと)」「分からない」のいずれかを記入するものである。
人種によって効果に差
検討の結果、18カ月後の一致率は全体で83%(126組中104組)だった。観察期間中に、一致率が高い集団〔116組中69組(60%)〕および一致率が低い集団〔116組中47組(41%)〕の2つの特徴的な集団が同定された。
一致率が高い集団のオッズ比(OR)を算出したところ、対照群に対しFACE-TC群では3.22と有意に高かった(95%CI 1.09~9.57)。しかし有意差は18カ月後には消失した(OR 2.08、95%CI 0.92~4.69)。
なお、アメリカンインディアン/アラスカ先住民、アジア人、黒人/アフリカ系米国人、ヒスパニック/ラテン系、多人種などの少数の患者および家族に比べ、白人では一致率が有意に高かった(OR 3.97、95%CI 1.07~14.69 )。
以上の結果を踏まえ、Needle氏らは「終末期治療に対する青少年がん患者の意向について、FACE-TCを行うことで、患者と家族の相互理解が1年間持続することが示された」と結論。ただし人種や民族によって、介入効果の持続性が異なることからさらなる研究を要するとしている。
(田上玲子)