中国・Shanghai Municipal Hospital of Traditional Chinese Medicine/Shanghai University of Traditional Chinese MedicineのXuan Yin氏らは、不眠症を合併するうつ病患者270例を対象に、電気鍼治療の有効性および安全性をランダム化比較試験で検討。その結果、シャム鍼治療または標準治療を受けた患者と比べ、電気鍼治療を受けた患者では睡眠の質が有意に改善し、有意差は治療開始後32週まで継続したとJAMA Netw Open(2022; 5: e2220563)に発表した。
週3回、8週間治療で睡眠の質が改善
同試験では、ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)※1のスコアが7以上の睡眠障害を有し、米国精神医学会(APA)『精神疾患の分類と診断の手引き第5版(DSM-5)』のうつ病の診断基準を満たす18~70歳の270例(平均年齢50.3歳、女性71.9%)を登録。標準治療と電気鍼治療を併用する群、標準治療と鍼を挿入せず皮膚に触れるだけのシャム鍼治療を併用する群、標準治療のみを行う対照群に90例ずつランダムに割り付けて8週間治療した。鍼治療は1回30分を週3回、計24回施行した。ベースライン時の平均PSQIスコアは電気鍼群が15.1、シャム鍼群が14.7、対照群が15.2だった。
解析の結果、主要評価項目とした治療開始後8週時点におけるPSQIスコアのベースラインからの平均変化量は、電気鍼群が-6.2(95%CI -6.9~-5.6)、シャム鍼群が-2.5(同-3.1~-1.9)、対照群が-1.1(同-1.8~-0.5)だった。電気鍼群のPSQIスコアの改善度は、シャム鍼群(群間差-3.6、95%CI -4.4~-2.8)および対照群(同-5.1、-6.0~-4.2)と比べて有意に大きかった(全てP<0.001)。
電気鍼治療による睡眠の質の有意な改善効果は、治療開始後32週まで持続していた(全てP<0.001)。
不眠重症度、抑うつ気分、不安も改善
電気鍼群における副次評価項目の治療開始後8週時点におけるベースラインからの平均変化量は、ハミルトンうつ病評価尺度17項目スコア※2が-10.7(95%CI -11.8~-9.7)、不眠の重症度を示すInsomnia Severity Indexスコア※3が-7.6(同-8.5~-6.7)、不安の自己評価尺度Self-rating Anxiety Scaleスコア※4が-2.9(同-4.1~-1.7)、アクチグラフにより測定した総睡眠時間が29.1分(同21.5~36.7分)だった。いずれもシャム鍼群および対照群と比べて有意な改善が認められた(全てP<0.001)。
ただし、覚醒頻度については有意差が認められなかった。
鍼治療に関連する有害事象は電気鍼群の7例(7.8%)とシャム鍼群の4例(4.4%)に発現し、最も発現頻度が高かったのは血腫および局所痛だった。重篤な有害事象は認められなかった。
以上を踏まえ、Yin氏らは「標準治療と8週間の電気鍼治療の併用は、うつ病患者の不眠症に対し有効かつ安全であることが示された」と結論している。
※1スコア範囲0~21、高スコアほど睡眠の質が低く睡眠障害が重症
※2スコア範囲0~52、高スコアほど重度のうつ病
※3スコア範囲0~28、高スコアほど睡眠の質が低い
※4スコア範囲20~80、高スコアほど重度の不安
(太田敦子)