新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染が急速に拡大し、第七波に突入した。米・ウェイン州立大学の黒田直生人氏、横浜市立大学脳神経外科学教室の池谷直樹氏らは、国内24カ所のてんかん医療施設と共同で、コロナ禍が及ぼす日本のてんかん医療への影響を検討する全国規模の調査を実施。その結果、コロナ禍であること自体や緊急事態宣言発出の影響により、遠隔でのてんかん診療件数が大幅に増加した一方、てんかん外来患者数、てんかんによる入院患者数、脳波モニタリング検査件数、てんかん手術件数は減少したことが明らかになったと、Epilepsia Open2022年5月28日オンライン版)に発表した。

コロナ患者1,000人増ごとに入院患者は3.8%減、脳波モニタリング検査は3.8%減

 SARS-CoV-2の感染拡大が医療全体に与えた影響に関する研究は多いが、コロナ禍や対コロナ政策が日本のてんかん診療に及ぼす影響を定量化した全国調査は行われていなかった。そこで池谷氏らは、全国多施設共同後ろ向きコホート研究を実施した。

 日本全国24施設を対象に、2019年1月~20年12月のてんかん診療件数を調査し、①施設の特性(病院 or クリニック)、②施設所在地(都道府県)の人口、③施設におけるてんかん専門医の人数、④コロナ禍、⑤各都道府県の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)陽性者数、⑥緊急事態宣言の発出―の各項目がてんかん診療に及ぼす影響の度合いを多変量解析を用いて検討した。

 その結果、COVID-19の流行前(2019年)と比べ流行後(2020年)には、外来での脳波検査件数が有意に減少した(-10.7%、P<0.001)。反対に、遠隔でのてんかん診療件数が有意に増加した(+2,608%、P=0.031)。

 また、COVID-19患者数が1,000人増加するごとに、てんかんによる入院患者数(-3.75%、P<0.001)、脳波モニタリング検査件数(-3.81%、P=0.004)はいずれも有意に減少した。

緊急事態宣言下で、遠隔てんかん診療件数が12,915%有意に上昇

 さらに、非緊急事態宣言下(2019年、2020年の4~5月以外)と比べ緊急事態宣言下(2020年4~5月)では、遠隔でのてんかん診療件数が有意に増加(+12,915%)。その一方で、てんかん外来患者数(-11.9%)、てんかんによる入院患者数(-35.3%)、外来での脳波検査件数(-32.3%)、脳波モニタリング検査件数(-24.7%)、てんかん手術件数(-50.3%)はいずれも有意に減少した(全てP<0.001)。

 以上から、黒田氏、池谷氏は「コロナ禍であること、各地域のCOVID-19陽性者の増加、およびそれに対する政策・対策が、日本のてんかん医療に多大な影響を及ぼすことが示された」と結論。さらに「今回の結果は、将来的にCOVID-19に限らず他の疾患の拡大といった危機的状況下で講じた対策が、日本のてんかん診療にどのような影響を及ぼすかを予測する上で重要な基礎データになるだろう」と付言した。

(比企野綾子)