前立腺がんは男性が罹患するがんの中で最も多く、国内の新規患者数は年間8万例を超え、2040年までに世界で100万例超の新規患者が発生すると推定される。転移例や根治治療ができない例には、アンドロゲン遮断療法(ADT)が行われるが、しばしば副作用として肥満やフレイル、骨粗鬆症、うつ、認知症などが課題となる。順天堂大学大学院泌尿器外科学の呉彰眞氏らの共同研究グループは、前立腺がん患者へのADTによりテストステロン濃度が低下すると、これらの病態との関連が指摘される腸内細菌叢の多様性が損なわれることを明らかにしたとProstate Cancer Prostatic Dis(2022年4月13日オンライン版)に発表した。
ADT後の腸内細菌叢の変化を経時的に測定
近年の研究で腸内細菌叢の多様性や腸内細菌が産生する代謝物質は健康に大きな影響を及ぼすことが明らかになりつつある。また腸内細菌叢の多様性の低下は、ADTの副作用として現れるフレイル、骨粗鬆症、うつ、認知症などのリスクを高めることが示唆されている。そこで研究グループは、前立腺がんへのADTに伴うテストステロン濃度の低下と腸内細菌叢との関連について検討した。
対象は前立腺がんに対しADTを施行した日本人患者23例。治療開始前(1、2週前)と開始後(1、4、12、24週後)に便と血液検体を採取し、次世代シークエンサーによる細菌叢解析、質量分析器を用いた便中代謝物質解析を行い、血中テストステロン濃度と腸内細菌叢およびその代謝物質との関連を調べた。
腸内細菌叢の変化がADT副作用に関与していることを示唆
その結果、腸内細菌叢の多様性解析では、ADT施行後に腸内細菌叢に含まれる菌種数の指標となるα多様性(図1)、細菌叢に含まれる菌種同士の種多様性の指標となるβ多様性(図2)がいずれも有意に低下していた(順にP=0.017、P<0.001)。
図1. ADT施行前後におけるα多様性の変化
図2. ADT施行前後におけるβ多様性(構成種:左、構成種と存在量:右)の変化
(図1、2とも順天堂大学プレスリリースより)
今回の結果を踏まえ、研究グループは「前立腺がん患者に対するADT施行に伴う血中テストステロン濃度の低下は、腸内細菌叢の多様性を有意に低下させることが明らかになった。この腸内細菌叢の変化がADTによる副作用の発症に関与している可能性が示唆される」と結論。「ADT施行時に腸内細菌叢の多様性低下を抑制する食事療法を併用するなど、副作用の低減につながる知見だ」と期待を寄せている。
(小野寺尊允)