米・Institute for Psycholinguistics and Digital HealthのThomas D. Hull氏らは、うつ病または不安障害の患者1,247例を対象に、自宅でインターネットを活用した遠隔医療プラットホーム(www.mindbloom.com)を通じて支援とモニタリングを受けながらケタミン舌下錠(日本では適応外、舌下錠未承認)を服用する在宅ケタミン療法の有効性と安全性を検討。その結果、週1回4週間(計4セッション)の治療により6割の患者で不安・抑うつ症状スコアが50%以上改善したとJ Affect Disord(2022; 314: 59-67)に発表した。同氏らは「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックなどに伴う治療アクセス障壁を安全に克服できる有用な方法」としている(関連記事『世界初、うつ病へのケタミンをAMPA-PETで検証』『ケタミンが治療抵抗性うつ病の有力な選択肢に』)。
専門ガイドが服薬を支援・モニタリング
対象は、うつ病と診断されPatient Health Questionnaire(PHQ-9、スコア範囲0~27)スコアが10以上の者と、不安障害と診断されGeneralized Anxiety Disorder scale(GAD-7、スコア範囲0~21)スコアが10以上で18歳以上の計1,247例(平均年齢40.0歳、女性54.6%)。
治療手順は、まず臨床医がビデオ診察を行い、適格と判定した患者にケタミン舌下錠(300~450mg)1錠と患者支援素材(デジタル血圧計、患者日誌など)を送付した。ケタミン舌下錠は、舌下または歯茎と頬の間に挟み、飲み込まずに7分間保持してから唾液を全て吐き出すよう指示した。Hull氏らは「舌下錠を飲み込んでしまうとノルケタミンなどのケタミン代謝物が増加して鎮静作用、吐き気などの副作用のリスクが高まるが、この方法では飲み込みのリスクが大幅に低下する」と述べている。
服用1~2日後に、再び臨床医がビデオ面接を行って患者の状態を確認した。血圧や心拍数の異常、服薬不遵守などが認められた場合は次回の治療を中止することとした。治療期間中は、専門訓練を受けた「ガイド」が患者のモニタリングおよびテキストメッセージによる支援を行った。
悪化は1%未満、治療中止は6例
PHQ-9スコアを用いて抑うつ症状を、GAD-7スコアを用いて不安症状を評価し、治療開始後4週間の変化を検討した。50%以上のスコア低下が認められた場合を奏効と定義した。解析の結果、奏効した患者の割合(奏効率)は、抑うつ症状で62.8%(Cohenの効果量d=1.61)、不安症状で62.9%(d=1.56)だった。
スコア5未満を維持した割合(寛解率)は、抑うつ症状で32.6%、不安症状で31.3%だった。一方、スコアが5以上上昇した割合(悪化率)は、抑うつ症状で0.9%、不安症状で0.6%だった。
副作用は2回目の治療後に59例(4.7%)、4回目の治療後に27例(3.8%)に発現した。有害事象による治療中止は4例で、さらに2例が臨床医により服薬不遵守と判定され治療を中止した。
改善遅延に関連する因子は?
治療開始後4週における症状の経時的変化を解析した結果、①PHQ-9およびGAD-7のスコアが継続的に低下する改善群(79.3%)、②スコアがやや低下するものの高値を維持する慢性化群(11.4%)、③2週目まで変化がなく3~4週目にスコアが急降下する改善遅延群(9.3%)―の3パターンが確認された。
ロジスティック回帰分析の結果、2回目の治療における副作用リスクは改善群に比べて改善遅延群(P<0.001)および慢性化群(P=0.011)で有意に高かった。また、4回目の治療における解離性症状のリスクは他の2群と比べて慢性化群で有意に高かった(P<0.001)。
以上を踏まえ、Hull氏らは「在宅ケタミン療法は、効果が強力かつ迅速で有害事象が極めて少なく、うつ病および不安障害の治療アクセスへの障壁を安全かつ容易に克服できる重要な方法であることが示された。今後の研究で効果の持続性を評価すべきである」と結論している。
(太田敦子)