米国の50歳以上の高血圧患者を対象に、厳格な降圧による心血管疾患抑制効果を検討したSPRINT試験。米・University of PennsylvaniaのJordana B. Cohen氏らは、同試験の二次解析としてアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)またはACE阻害薬を新規に投与した例における軽度認知障害(MCI)およびprobableアルツハイマー病(AD)との関連を検討。いずれの降圧薬も抑制効果が認められなかったとの結果を、JAMA Netw Open(2022; 5: e2220680)に報告した。ただし、降圧目標を厳格群でなく標準群に割り付けられた例では、いずれも有意な抑制効果が示された。
非投与の5,469例中2,040例が対象
高血圧は、認知機能低下および認知症の危険因子だが、ランダム化比較試験(RCT)のメタ解析から降圧薬による血圧低下が認知機能低下のリスクを低減させることが報告されている(JAMA 2020; 323: 1934-1944)。しかし認知機能保護効果が、血圧低下のみによるものか、血圧低下とは無関係に降圧薬による脳への直接的な作用によるものかは明らかでない。
米国で約,4000万人に使用され、高血圧ガイドラインで推奨されているARBおよびACE阻害薬は、脳・心・腎への臓器保護作用に関しては多く比較検討されているものの、認知機能保護作用を検討した研究はほとんどない。
Cohen氏らは今回、SPRINT試験の二次解析としてARBまたはACE阻害薬を新規に投与した高血圧患者におけるMCI、probable ADの発症リスクを評価した。
対象は、SPRINT試験においてベースライン時にARBまたはACE阻害薬を投与されていなかった5,469例(58.4%)のうち、試験開始後12カ月間にいずれかを新規投与された2,040例(ARB 727例、ACE阻害薬1,313例、平均年齢67歳、男性63%、ヒスパニック系53%、白人2%)。
主要評価項目は、MCIまたはprobable AD発症の複合とし、データ解析は2021年4月7日~22年4月26日に実施した。
MCI/probable ADは、100人・年当たりARBが3.9、ACE阻害薬が4.8
中央値で4.9年の追跡期間中に、MCIまたはprobable ADを発症したのは、ARBが118例、ACE阻害薬が260例だった。主要評価項目であるMCI/probable ADの発症率は100人・年当たりARB 3.9 vs. ACE阻害薬 4.8〔ハザード比(HR)0.80、95%CI 0.64~1.01〕と、ARB投与例とACE阻害薬投与例で有意差は認められなかった。また逆確率重み付け法(Inverse Probability Weighting;IPW)を用いたロジスティック回帰分析においても、100人・年当たり4.3 vs. 4.6(HR 0.93、95%CI 0.76~1.13)と有意差はなかった。
さらに、感度分析およびサブグループ分析を実施。収縮期血圧(SBP)140mmHg未満を目指す標準降圧群に割り付けられたACE阻害薬例に対しARB投与例では、MCI/probable ADのリスクが有意に低かった(HR 0.61、95% CI 0.41~0.91)。一方、SBP 120mmHg未満を目指す厳格降圧群では、ACE阻害薬例とARB投与例で有意差は認められなかった(HR 1.17、95%CI 0.90~1.52、交互作用のP=0.007)。
厳格降圧が行われていない例ではリスク低下も
今回、全体では新規ACE阻害薬投与例に対する新規ARB投与例でのMCI/probable AD発症リスクに有意な低下が示されなかった。
しかしサブグループ解析では、標準降圧群の新規ARB投与例で発症リスクが明らかに低かったことを挙げ、Cohen氏らは「厳格降圧下では、ACE阻害薬との比較においてARBの潜在的有益性を低減させることを示唆する」と考察している。すなわち、SBP 120mmHg未満の厳格降圧が行われていないケースでは、ARB投与により認知機能低下リスクが低減される可能性を示しており、両薬のRCTによる検証を要するとしている。
(田上玲子)