一部の男性において、細胞からY染色体が失われる後天的Y染色体欠失(Loss of Y chromosome;mLOY)が確認されている。mLOYは加齢や喫煙によって増加することが知られているが、詳細なメカニズムは明らかでない。大阪公立大学循環器内科学講師の佐野宗一氏らは、mLOYが生じた血液細胞の働きにより、心組織の線維化が亢進することをScience2022;37: 292-297)に報告した。

Y染色体の欠損割合が40%以上で心血管疾患死亡は1.3倍に

 mLOYはヒトにおいて最も頻度の高い体細胞変異であり、主に血液細胞で認められる。その頻度は加齢とともに増加し、70歳男性の40%に見られること(Nature 2019; 575: 652-657)、mLOYを認めない男性に比べ、認められる男性は固形がんを発症しやすく寿命が短いことが報告されている(Nat Genet 2014; 46: 624-628)。しかしmLOYは単なる老化現象であるのか、疾患との因果関係があるかは明らかでなかった。そこで佐野氏らは今回、mLOYと疾患との関連およびメカニズムを検討した。

 まず統計学的な見地から検討すべく、UK Biobank登録者を解析したところ、心血管疾患による死亡率はmLOYの割合が1%増加するごとに1.0054倍になり、40%を超えると1.3倍であった。特に高血圧性心疾患は3.5倍と高く、心不全が1.8倍(うっ血性心不全は2.4倍)、大動脈瘤および大動脈乖離が2.8倍であった。

 次にmLOYと心血管疾患の関連を検証するため、血液細胞でのみY染色体を欠失させたマウス(mLOYマウス)と野生型マウスに心不全を誘導して比較した結果、対照マウスに比べてmLOYマウスは心不全の予後が不良であることが示された。さらに、mLOYマウスの心臓では線維芽細胞の増殖が見られた()。

図. mLOYマウスと対照マウスにおける心臓の状態

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(大阪公立大学プレスリリースより引用)

 mLOYマウスの線維芽細胞はY染色体を保った状態で活性化していることから、同氏らはY染色体が欠失した血液細胞の働きによって心組織の線維化が誘導されたと予測し、心臓部に集まった白血球を精査した。その結果、Y染色体が欠失した心臓のマクロファージはTGF-β1やGAL-3といった線維芽細胞を活性化させる物質を多量に産生していることが確認された。

心不全や線維化の悪化に関与する遺伝子の特定を目指す

 これらの結果から、Y染色体が欠失した心臓マクロファージが線維芽細胞に作用することで線維化を促進していると示唆された。今後の展望について、佐野氏らは「mLOYによって欠失するY染色体上の遺伝子の中から、心不全や線維化の悪化に関係する遺伝子を特定したい」としている。

(編集部)