心臓手術後の心房細動(AF)発症についてはこれまで多くの解析データがあるが、その他の手術後の不整脈については明らかでない。ドイツ・University Medical Center GöttingenのFelix Rühlmann氏らは、上部消化管手術を受けた約1,200例を対象に術後AFの発症率と危険因子、転帰を後ろ向きに解析。術後AFは、食道切除術後に最も高率に生じ、年齢、術中合併症、感染症、臓器不全、集中治療室(ICU)長期滞在と関連しており、発症例の院内死亡率は高いことなどをJAMA Netw Open2022; 5: e2223225)に報告した。

術後の新規不整脈は8.3%

 Rühlmann氏らは2012年1月〜18年12月にUniversity Medical Center Göttingenで上部消化管(食道、胃、膵臓)手術を受けた1,210例を対象に、術後不整脈の発症率と危険因子、短期および長期転帰を検討した。不整脈既往およびペースメーカー装着患者は除外した。

 年齢中央値は62歳〔四分位範囲(IQR)19~90歳〕で男性が58.2%だった。術後不整脈は100例(8.3%)に認められた。全例でAFが記録されており、うち99例はAFが主な不整脈だったため、解析では術後AFに焦点を当てた。

食道切除術での発症率は17~45%

 手術臓器別で、術後AF発症と最も強く関連していたのは食道切除術で、複雑な術式を要する食道切除術が45.5%、胸腹部食道切除術の待機手術が17.1%、次いで膵全摘術が16.7%だった。

 多変量ロジスティック回帰分析の結果、術後AFと関連する因子として年齢〔オッズ比(OR)1.06、95%CI 1.03~1.08、P<0.001〕、術中合併症(同2.47、1.29~4.74、P=0.006)、感染症(同2.23、1.31~3.80、P=0.003、臓器不全(同4.01、 2.31~6.99、P<0.001)が抽出された。。

 また、術後AF発症は、ICU長期滞在とも関連していた(術後AF発症群23.4日 vs. 非発症群5.9日、P<0.001)。

AF発症は院内死亡と有意に関連

 さらに、術後AF(OR 7.08、95%CI 2.75~18.23、P<0. 001)と敗血症(同10.98、3.91~30.81、P<0.001)に、院内死亡との有意な関連が認められた。

 術後AFを発症した100例のうち、院内死亡および追跡脱落の26例を除いた74例で退院後の追跡が可能だった。74例中20例(27.0%)が、中央値19カ月の追跡期間中に永続性または発作性のAFエピソードを再発していた。これは、年齢をマッチングさせた集団における発症率0.8%と比べ有意に高かった。

 Rühlmann氏らは「上部消化管手術後の患者において術後の新規AFは、深刻な術後合併症に関連することが示唆された。また、術後AFの危険因子として年齢、臓器不全、術中合併症などが示された」と結論。「ただし、後ろ向き解析であるため、相互作用については不明である」と付言している。

(小路浩史)