今年(2022年)5月以降、流行地域とされるアフリカだけでなく、欧米を中心に全世界でサル痘発症例の報告が相次いでいるが、日本でも昨日(7月25日)に初の感染例が確認された。世界保健機関(WHO)は7月23日にサル痘を「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に相当すると宣言したが、まだ感染経路や危険因子、臨床症状、転帰などは十分に定義されていない。英国・Queen Mary University of LondonのJohn P. Thornhill氏らは、サル痘の症例集積を行うため臨床医の国際共同グループ「SHARE-net Clinical Group」を結成。2022年4月27日以降の2カ月間にアフリカ以外の16カ国で診断されたサル痘を対象に、症状、臨床経過、転帰について検討。さまざまな皮膚および全身的な臨床所見を示したことなどを、N Engl J Med2022年7月21日オンライン版)に発表した(関連記事『アフリカの風土病「サル痘」-今分かる知識』『サル痘、現時点の基礎知識はこれだ』『サル痘に効く抗ウイルス薬の最新エビデンス』)。

多くは男性間性交渉者も、異性愛者の男性例の見逃しに注意

 Thornhill氏らが所属しているロンドン東部を拠点とするSexual Health,HIV All East Research(SHARE)Collaborativeは、非公式の臨床および研究ネットワークを通じてサル痘の発症例を認めた国の臨床医と連絡を取り、SHARE-netを結成した。

 今年4月27日から6月24日までに欧米、イスラエルおよびオーストラリアの16カ国の43臨床現場から、PCR検査により528例のヒトサル痘ウイルスの感染者が確認された。

 感染者の特徴として、トランスジェンダーまたはノンバイナリー(性自認が男性と女性のどちらでもない)とされた1例を除く527例が男性で(女性は0例)、うち98%がゲイまたはバイセクシュアルなどの男性間性交渉者(MSM)、75%は白人であった。「ただ、異性愛者の男性例も2%(9例)含まれているため、見逃さないように注意しなければならない」と同氏。

 年齢の中央値は38歳(18~68)。感染経路は95%で密接な性的接触が疑われた。

 サル痘ウイルス感染者の41%(218例)がHIVに感染していたが、そのうち96%は抗HIV治療が行われ、95%がHIVウイルス量50コピー/mL未満であり、HIV感染者のほとんどが十分に管理されていた。一方、59%のHIV陰性または感染不明例の57%はサル痘発症前月にHIVに対する曝露前予防投薬(PrEP)が行われた。

肛門性器の発疹あるいは皮膚病変が最多、先行して全身症状も

 臨床所見は、95%(500例)が発疹または皮膚病変を呈し、皮膚病変の部位は73%が肛門性器であった。発疹が報告された500例のうち、最も多かったのは小水疱膿疱性病変の58%だが、単一の陰部潰瘍のみも11%存在し、他の性感染症と誤診される可能性が指摘された。

 また、41%(217例)が粘膜病変を呈した。その3割近く(61例)で肛門直腸粘膜の病変に関連する症状として肛門直腸痛、直腸炎、直腸テネスムス、下痢、またはこれらの症状の合併が報告された。

 経過中に好発した全身症状は、発熱62%、嗜眠41%、筋肉痛31%、頭痛27%で、これらはしばしば全身性の発疹に先行していた。リンパ節腫脹も56%に認められた。

 Thornhill氏らは「われわれが観察した臨床所見には、現時点のWHOなどの国際的な症例定義に含まれていない幾つかの明確な特徴があった。特に、粘膜または直腸所見については特徴的であり、単一の性器の皮膚病変や感染者の1割に認められた手掌および足蹠の病変は梅毒や他の性感染症と誤診されやすく、診断が遅れる可能性がある。さらに、検査を受けた377例中109例(29%)で性感染症の併発も認められ、既存の性感染症の症状を呈する高リスク者ではサル痘を考慮することが勧められる」としている。

ほとんどの症例が軽度

 臨床転帰は、大半の症例が軽度で死亡例はなかった。13%(70例)が入院したが、重篤な合併症の報告は少なかった。入院の主な理由は疼痛管理(21例)で、その多くが重度の肛門直腸痛で、軟部組織の重感染(18例)だった。まれに重篤な合併症(心筋炎と喉頭蓋炎)が観察された。Thornhill氏らは「追跡期間が短いことを考慮すると、長期にわたり臨床経過と合併症について調査する必要がある」とコメント。

 最後に同氏らは「ウイルスに国境はないため、サル痘の流行を封じ込めるには、迅速かつ世界がまとまりのある行動を取る必要がある。現状で広く利用可能な治療法や予防法がなければ、速やかな症例の特定が不可欠である。臨床医学で見られるように疾病がどのように発生するかには多様性がある。これはサル痘も例外ではない」と付言している。

(宇佐美陽子)