米・Massachusetts General HospitalのGregory D. Lewis氏らは、左室駆出率(LVEF)の低下した慢性心不全(HFrEF)患者276例を対象に、標準治療への選択的心筋ミオシン活性化薬omecamtiv mecarbil上乗せの有効性を検討する第Ⅲ相二重盲検ランダム化比較試験METEORIC-HF*を実施。プラセボ群に対し、omecamtiv mecarbil群ではべて20週後の運動耐容能を有意に改善しなかったとの結果をJAMA(2022 ; 328: 259-269)に発表した。
運動耐容能の低下は主要な臨床課題
運動耐容能の低下はHFrEFの主要な症状だが、現行ガイドラインに基づく治療法のいずれによっても改善されていない。心筋ミオシン活性化薬omecamtiv mecarbilは慢性HFrEF患者の心機能を改善し、GALACTIC-HF試験で初回心不全(HF)イベントおよび心血管死の複合リスクを低減させることが示されている(関連記事「心筋ミオシン活性化薬が重症心不全に有効」)。
今回のMETEORIC-HF試験では、同薬がHFrEF患者の運動耐容能を改善するという仮説を検証した。対象は、2019年4月~21年11月に北米と欧州の63施設で登録したHFrEF患者276例。適格基準は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)心機能分類Ⅱ~Ⅲ度、N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)値200pg/mL以上、最高酸素摂取量(peak VO2)が予測値の75%以下およびLVEF 35%以下で、GALACTIC-HF試験よりも重症度は低い。
ベースラインからのpeak VO2の変化量を評価
運動負荷試験でのガス交換比(1.05~1.15未満/1.15以上)および持続性心房細動の有無を層別化因子とし、心不全の標準治療にomecamtiv mecarbil(OM群185例:血行動態に応じて25mg、37.5mg、50mgを1日2回)またはプラセボを上乗せする群(91例)に2:1でランダムに割付け、20週間経口投与した。
主要評価項目は、20週時における運動耐容能(peak VO2)のベースラインからの変化量とした。副次評価項目は、総負荷量、換気効率、1日の平均身体活動量(加速度計により18~20週に測定)などとした。
276例〔年齢中央値64歳、四分位範囲(IQR)56~72歳、女性15%〕のHF罹病期間中央値は5.7年(IQR 1.9~10.0年)、HFの基礎療法はサクビトリルバルサルタンが66%、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬が72%、SGLT2阻害薬が18%、心臓再同期療法が28%など。登録時のLVEF中央値は28%(同21~33%)、NT-proBNP中央値は791pg/mL(同422~1,475pg/mL)、78.6%がNYHA機能分類Ⅱ度で、カンザスシティ心筋症質問票(KCCQ)の総症状スコア(0~100点)中央値は85.4点(IQR 67.2~95.8点)だった。
運動負荷試験の指標などの改善効果示されず
OM群164例とプラセボ群85例、全体で249例(90%)がプロトコルを完了した。ベースライン時の運動耐容能は低下しており、peak VO2の中央値はOM群で14.2mL/kg/分(IQR 11.6~17.4mL/kg/分)、プラセボ群で15.0mL/kg/分(同12.0~17.2mL/kg/分)。20週時点におけるpeak VO2のベースラインからの変化量は、両群に有意差がなかった。最小二乗平均(LSM)はOM群で−0.24mL/kg/分、プラセボ群で0.21mL/kg/分、両群の差は−0.45mL/kg/分(95%CI −1.02〜0.13mL/kg/分、P=0.13)だった。
副次評価項目の変化量を見ると、両群のLSMの差は換気効率(VE/VCO2 slope)が0.41(95%CI −0.8~1.6)、1日の平均身体活動量が0.3(同−0.6 ~1.1)、最大負荷量で−5.4W(同-10.1~−0.7W)と、いずれもomecamtiv mecarbilの治療効果は示されなかった。
有害事象はめまい(OM群4.9%、プラセボ群5.5%)、倦怠感(同4.9%、4.4%)、HFイベント(同4.9%、4.4%)、死亡(同1.6%、1.1%)、脳卒中(同0.5%、1.1%)、心筋梗塞(同0%、1.1%)などが発生した。
以上の結果から、Lewis氏らは「慢性HFrEF患者に対するomecamtiv mecarbilの投与は、プラセボと比べ20週後の運動耐容能を有意に改善しなかった。これらのデータは、運動耐容能の改善を目的としたomecamtiv mecarbilの使用を支持していない」と結論。その上で、「HFrEFに関連する生理学的および解剖学的変化の可逆性は研究途上にある。運動耐容能を改善するために、より長期の治療または運動プログラムの追加が必要かどうかについても検討する価値がある」と述べている。
(坂田真子)
※Multicenter Exercise Tolerance Evaluation of Omecamtiv Mecarbil Related to Increased Contractility in Heart Failure