外科医や看護師の人員配置が手術後の患者転帰に与える影響についての検討が進められているが、麻酔科医の人員配置率と術後転帰との関連については不明点が多い。米・University of MichiganのMichael L. Burns氏らは、米国の57万件超の手術について後ろ向きコホート研究を実施。麻酔科医が同時に麻酔管理を行う手術の件数が多いほど術後合併症・死亡が増加したとJAMA Surg2020年7月20日オンライン版)に報告した。

監督者としての麻酔科医が同時管理する手術の件数で比較

 米国では、麻酔専門看護師(CRNA)が麻酔導入と維持を担当し、麻酔科医は監督者を務めるのが一般的で、複数の手術を同時に管理することも多い。今回、検討の対象とした手術はこうした体制で施行され、レジデントが麻酔ケアに参加する場合は、その割合が25%未満の手術のみを解析に組み入れた。麻酔科医が単独で直接麻酔ケアを行った手術は、麻酔管理の質が異なるため除外した。

 Burns氏らは、2010年10月〜17年10月に米国の23施設において入院を要する心臓以外の大手術を受けた患者のデータを、MPOGの電子カルテ登録から抽出した。18歳未満、週末・祝日・夜間手術、肝臓・白内障・産科の手術など人員配置が固定されている手術などを除外した86万6,453件から、患者・手術・施設因子による傾向スコアマッチングが可能だった57万8,815件(平均年齢55.7±16.2歳、女性比率55.1%)の手術データを解析に組み入れた。

 麻酔科医が同時に麻酔管理を行う手術の件数により1件、1〜2件、2〜3件、3〜4件の4群に分けた。各手術における麻酔科医の入退室時刻を基に、連続時間変数により重み付けした平均人員配置率を算出し、傾向スコアを4群で一致させ、群間バランスを取った。追加の変数として、合併症、教育施設か否か、手術年を組み入れた。主要評価項目は、30日死亡率と主な合併症(心臓、呼吸器、胃腸、尿路、出血感染症の6領域に分類)の複合とした。

1~2件群に対し、2~3件群で4%、3~4件群で14%増加

 各群の手術件数は、1件の群が4万8,555件、1~2件の群が24万7,057件、2~3件の群が21万6,193件、3~4件の群が6万7,010件だった。米国麻酔学会術前状態(ASA-PS)分類はⅠ〜Ⅱが30万8,028件(53.2%)で、緊急手術は1万4,354件(2.5%)、全身麻酔の使用は43万1,229件(74.5%)、教育施設での手術は30万1,687件(52.1%)だった。麻酔持続時間は中央値106分(四分位範囲64~176分)だった。

 同時麻酔管理の件数の増加は、危険因子調整後の合併症および死亡率の増大と関連しており、術後死亡・合併症は、1〜2件群の5.06%に対し、2〜3件群は5.25%と相対的に4%増加〔調整オッズ比(aOR)1.04、95%CI 1.01~1.08、P=0.02)、3〜4件群は5.75%と14%増加した(同1.15、1.09~1.21、P<0.001)。1件群と2~3件群または3〜4件群には有意差はなかった。

 Burns氏らは「健康状態の良好な患者や低リスク手術に対する治療バイアスがあるにもかかわらず、同時麻酔管理件数の増加は合併症・死亡の増加と関連していた。今回の知見は、周術期チームモデルにおける同時麻酔管理がもたらしうる結果を示唆しており、臨床での人員配置において考慮すべきである」と結論づけている。

(小路浩史)

  • Multicenter Perioperative Outcomes Group:米国18州で使用されている周術期電子カルテ登録。データの質の厳格な管理を行っている