心不全に関するガイドラインでは塩分摂取制限が推奨されているが、左室駆出率(LVEF)が保持された心不全(HFpEF)患者における最適な塩分制限範囲やその効果については明らかになっていない。中国・Sun Yat-sen University First Affiliated HospitalのJiayong Li氏らは、塩分制限とHFpEF患者の予後との関連を明らかにするため、TOPCAT(Treatment of Preserved Cardiac Function Heart Failure with an Aldosterone Antagonist)試験からHFpEF患者1,713例のデータを用いて二次解析を行った。その結果、HFpEF患者における過度の塩分摂取制限は予後不良と関連していることを、Heart(2022年7月20日オンライン版)に発表した。
HFpEF患者1,700例超が対象
心不全患者の最適な塩分摂取量は長年研究されているが、HFpEF患者についてはこれらの研究のほとんどで除外されていた。HFpEF患者はLVEFが低下した心不全(HFrEF)患者とは治療や循環血漿量の状態(plasma volume status)への反応が異なり、塩分摂取量はこれらに大きく影響する可能性がある。
そこでLi氏らは、TOPCAT試験のデータを用いて、HFpEF患者における調理時の塩分制限の影響を検討した。
TOPCATは、LVEF 45%以上かつ50歳以上の症候性HFpEF患者におけるミネラルコルチコイド受容体拮抗薬スピロノラクトンの有効性を検討した第Ⅲ相二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験。このうち、南北米州からの参加者1,713例のデータを二次解析に利用した。
塩分摂取量は、1食分の調理に加えた食塩の量を自己申告してもらい、「追加なし」0ポイント、「小さじ8分の1」1ポイント、「小さじ4分の1」2ポイント、「小さじ2分の1」3ポイントとして調理塩スコアを求めた。
塩を全く追加しない群は複合心イベントリスクが有意に上昇
1,713例中816例は調理塩スコアが0ポイントであり、極めて厳格な塩分制限がなされていた。
調理塩スコア0ポイント群と1ポイント以上群で、中央値で2.93年の追跡期間における主要評価項目である複合心イベント(心血管死、心不全による入院、心拍再開した心停止の複合)、副次評価項目である複合心イベント(全死亡、心血管死、心不全による入院)を比較検討した。
0ポイント群に対し調理スコア1ポイント以上群では、複合心イベント〔ハザード比(HR)0.760、95%CI 0.638~0.906、p=0.002〕および心不全による入院(同0.737、0.603~0.900、p=0.003)のリスクが有意に低かった。しかし、全死亡(0.838、0.684~1.027、p=0.088)および心血管死(同0.782、0.593~1.020、p=0.071)に有意差はなかった。
すなわち、過度の塩分制限はHFpEF患者における複合心イベントリスクの上昇、さらに心不全入院リスクの上昇と有意に関連しており、予後不良につながることが示された。
HFpEF患者への塩分摂取制限の助言は慎重に
サブグループ解析では、注目すべきことに70歳を超える患者と比べて、70歳以下の患者は調理塩を追加することで複合心イベントおよび心不全による入院に有意な便益が得られる可能性が示された(順に交互作用のP=0.044、P=0.030)。さらに、白人の患者に比べ白人以外の患者は調理塩を追加することで複合心イベントにより多くの便益を得る可能性が示された(交互作用のP=0.085)。ただ、これは白人以外の参加者が比較的少なかったことが影響しているかもしれない(1,349例 vs.364例)。
Li氏らは、「70歳以下および白人以外のHFpEF患者では、過度の食塩制限と予後不良との関連がより強いことが示された。人種間でレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系に大きな差があり,塩分制限に対する反応が異なる可能性がある。今後の研究では、さまざまな人種のHFpEF患者における至適な塩分摂取範囲にもより注意を払う必要がある」と指摘している。
これらの知見を踏まえ、同氏らは「HFpEF患者では食事における過度の塩分制限は有害な影響を及ぼす可能性があり、予後不良につながることが示唆されたことから、臨床医はHFpEF患者に対する塩分制限の助言は慎重でなければならない。HFpEF患者の至適な塩分摂取範囲を明らかにするにはランダム化比較試験が必要である」と結論している。
(宇佐美陽子)