抗うつ薬の選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の副作用の1つに体重増加がある。しかし、薬物代謝酵素の活性に関わるシトクロムP450(CYP)の遺伝子多型とSSRIによる体重増加との関連は明らかでないとして、米・Mayo ClinicのMaria L. Ricardo-Silgado氏らは、4種類のSSRIとCYP遺伝子多型との関連を検討。結果をBMC Med2022年7月26日オンライン版)に報告した。

SSRI使用6カ月後の体重変化とCYP遺伝子多型を解析

 SSRI非使用のうつ病患者に比べ、使用者では3カ月後に4.2kgの体重増加が報告されている(J Clin Psychiatry 2015; 76: e745-751)が、メカニズムについてはあまり知られていないとRicardo-Silgado氏ら。また、遺伝的要因が体重変動に関与している可能性があることなどから、同氏らはSSRI 4剤(citalopram、パロキセチン、セルトラリン、fluoxetine)とSSRIの代謝に関わるCYP遺伝子多型との関連を検討する後ろ向きコホート研究を行った。

 対象は、Mayo Clinicが行ったRight Drug, Right Dose, Right Time(RIGHT)研究に参加した同施設の受信患者1万1,090例から抽出した663例。2004〜18年にcitalopram、パロキセチン、セルトラリン、fluoxetineのいずれかを使用し、使用開始前6カ月間の体重が安定していたことなどを組み入れ条件とした。18歳未満、治療開始6カ月未満、追跡中の体重の記録なし、肥満治療歴ありなどは除外した。

 663例のSSRIの内訳は、citalopram群202例、パロキセチン群107例、セルトラリン群163例、fluoxetine群191例。平均年齢はそれぞれ51歳、59歳、64歳、65歳、女性は78%、75%、72%、79%、平均体重は76.2kg、74.2kg、76.7kg、82.0kgだった。CYP遺伝子については、SSRIの代謝に関わるCYP2C19CYP2D6CYP2C9を、低・中活性型、通常活性型、高・超高活性型の3つに分類した。

citalopram群でのみCYPの低・中活性型で有意な体重増加

 SSRI使用6カ月後の総体重増加割合(TBWG)は0.7%(95%CI −1.4〜2.9%)で、薬剤別ではcitalopram群1.1%(同−1.3〜3.1%)、パロキセチン群0.9%(同−1.2〜3.3%)、セルトラリン群1.1%(−1.0〜2.9%)、fluoxetine群0.1%(−1.9〜2.6%)だった。

 薬剤別にTBWGと各CYP遺伝子多型との関連を検討したところ、citalopram群のうちCYP2C19の低・中活性型は通常および高・超高活性型に比べ有意な体重増加が示された〔順に2.6%(95%CI 1.3〜4.1%)、0.4%(同−0.5〜1.3%)、−0.1(同−1.5〜1.1%)、P=0.001〕。一方、CYP2D6およびCYP2C9では、いずれのSSRIもTBWGの有意な群間差は認められなかった。BMI別に見ても同様の結果であった。

 以上から、Ricardo-Silgado氏らは「SSRIの副作用の1つである体重増加の要因を薬理遺伝学的に検討した後ろ向き研究により、citalopram使用うつ病患者においてはCYP2C19の低・中活性型が関与し、体重増加および肥満を予測しうることが示唆された」と結論。前向き研究によるさらなる検証の必要性を訴えている。

松浦庸夫