手術執刀担当者の割り振りについては、ほとんどの施設は外科のトップが決めている。こうした現状に鑑み、大阪医科薬科大学一般・消化器外科学教室の河野恵美子氏らは、日本の外科手術データベースNational Clinical Database(NCD)を用いて、低~高難易度の消化器外科手術6つの術式における外科医1人当たりの執刀数を男女で比較。いずれも男性外科医に比べ女性外科医の執刀数が少なく、性が手術執刀経験に大きく影響を及ぼしているとJAMA Surgery(2022年7月27日オンライン版)に報告した。

全体に占める女性外科医の割合は2018年に増加

 世界的に女性外科医の割合は増加しているものの、指導的立場にある女性が少なく、依然として男女格差が目立つ。

 厚生労働省の医師・歯科医師・薬剤師統計によると、外科医の総数は2006年の3万2,448人から2018年には1万3,751人に激減し、外科医不足の問題が深刻化している。同時期に女性外科医師数も1,381人から853人に減少したものの、2018年には全体に占める割合が増していた(2006年の4.2%に対し6.2%)。2006年、2018年とも女性外科医は30~34歳が最も多く、年齢層が高くなるにつれて徐々に減少し、指導的立場にある女性外科医はほとんどいなかった。

 河野氏、東京大学消化管外科学准教授の野村幸世氏、岐阜大学学⾧の吉田和弘氏らの研究グループは今回、日本の外科医不足、女性外科医の活躍をめぐる問題解決の糸口として、女性外科医の手術修練に着目した。

 手術経験は上⾧の指導下ではじめて積める上に、キャリア形成に大きな影響を及ぼす。そのため、女性外科医が指導的立場に立てない理由を考察するのに重要となる全ての年齢層における手術経験の男女差を明らかにする目的で、同氏らはNCDのデータを用いて多施設横断後ろ向き研究を実施した。

 なお、NCDには日本での全外科手術の95%以上が登録されている。

経験年数別の総手術件数および術者ごとの手術件数を評価

 河野氏らは、2013年1月1日~17年12月31日に日本消化器外科学会(JSGS)会員が行った手術のうち、次の手術について横断的に調査した。

  1. 虫垂切除術(JSGS消化器外科医養成カリキュラムで低難易度手術と定義)
  2. 胆嚢摘出術(同)
  3. 結腸右半切除術(中難易度手術と定義)
  4. 幽門側胃切除術(同)
  5. 低位前方切除術(高難易度手術と定義)
  6. 膵頭十二指腸切除術(同)

 手術の総件数、外科医の医籍番号、登録日、予想される手術死亡率(NCDでは術後90日以内の院内死亡または術後30日以内の死亡と定義)に関するデータはNCDから収集した。

 ただし、胆嚢摘出術および虫垂切除術については手術死亡率データがなかったため、手術成績の解析からは除外した。外科医の経験年数は医籍登録日からの年数として算出し、性別の確認は医籍番号と性別情報を含む日本外科学会会員の記録と照合した。医籍登録からの年数は、登録後20年間は1年刻み、20~29年は3年刻み、30~39年は10年刻み、40年以降は刻みなしとし、医籍登録年数は登録~20年は1年刻みで求めた。

 主要評価項目は性、経験年数別の総手術件数および術者ごとの手術件数とした。

男女格差は経験年数とともに拡大傾向に

 総手術件数は114万7,068件で、手術を行ったのは女性外科医が8万3,354件(7.27%)、男性外科医が106万3,714件(92.73%)だった。

 6つの術式のうち女性外科医が行った割合は、JSGSで低難易度手術と定義されている虫垂切除術(9.83%)および胆嚢摘出術(7.89%)が最も高かった。その一方で、高難易度手術と定義されている低位前方切除術(4.57%)および膵頭十二指腸切除術(2.64%)の割合が特に低かった。

 外科医1人当たりの手術件数については、医籍登録後2年間の虫垂切除術と胆嚢摘出術を除き、男性外科医に比べて女性外科医は全ての年において6つの術式経験が少なかった。

 各術式における最大の男女格差を見ると、虫垂切除術で3.17倍(医籍登録後15年目)、胆嚢摘出術で4.93倍(30~39年目)、結腸右半切除術で3.65倍(同)、幽門側胃切除術3.02倍(27~29歳)、低位前方切除術6.75倍(同)、膵頭十二指腸切除術22.2倍(30~39歳)と、男女格差は経験年数とともに拡大傾向にあった。

女性外科医も指導的立場であるのが本来のあるべき姿

 以上から、日本では女性外科医と男性外科医の手術経験に著しい格差があることが明らかになった。女性外科医が指導的立場で活躍できるよう、手術経験における男女格差の是正が求められる。

 河野氏らは「性が手術執刀経験に大きく影響を与えているという結果だった。女性外科医も一定以上の手術手技を習得し、指導的立場で日本の外科診療を担っていくことが本来のあるべき姿である」と指摘。「われわれの研究結果が外科におけるジェンダー平等と女性のエンパワーメントの実現につながることを期待している」と述べている。

(田上玲子)