1型糖尿病患者は、一般集団と比べて特定のがん(胃がん、肝がん、膵がん、腎がん)の発生率が高いと報告されているが(Diabetologia 2016; 59: 980-988)、がん危険因子に関する検討は少ない。米・Merck Research LabsのWenjun Zhong氏、米・Ohio UniversityのYuanjie Mao氏は、インスリン投与量ががん発生率と関連する可能性があるとJAMA Oncology (2022年7月28日オンライン版)で報告した。
1,300例のがん発生を最長28年間追跡
対象は、1型糖尿病患者の登録研究であるDCCT/EDIC研究の参加者のうち、1983〜89年に登録され、2012年までがんの発生に関するデータがある1,303例。1日当たりの平均インスリン投与量で低用量群(0.5U/kg未満)、中用量群(0.5〜0.8U/kg未満)、高用量群(0.8U/kg以上)の3群に分け、がん発生率を検討した。
最長28年(3万3,813人・年)の追跡期間中に93例(男性36例、女性57例)ががんと診断され、発生率は1,000人・年当たり2.8(95%CI 2.2〜3.3)だった。がん発生時期については、10年以内が8例、11〜20年以内が31例、21〜28年以内が54例、がん発生部位は皮膚27例、乳房15例、生殖器8例、消化器6例、頭頸部5例、骨または血液4例、前立腺4例、尿路2例、胸部2例、不明2例であった。
年齢と性を調整したCox比例ハザードモデルでは、がん発生の危険因子として年齢〔ハザード比(HR)1.08、95%CI 1.05〜1.12、P<0.001〕および女性(同1.74、1.15〜2.64、P=0.005)が、保護因子として運動習慣(同0.63、0.36〜1.10)とHDLコレステロール(HDL-C、同0.98、0.95〜1.00)が抽出された。
1,000人・年当たりのがん発生率は、低用量群が2.11、中用量群が2.87、高用量群が2.91であった。
時間依存変数(1日のインスリン投与量)と時間固定変数(1日平均インスリン投与量、HDL-C値、運動習慣)を用いた多変量モデルでは、毎日のインスリン投与量とがん発生率の関連が認められた〔時間依存変数:HR 5.93、95%CI 1.21〜29.06、P=0.03。時間固定変数:同4.13、1.13〜15.17、P=0.03〕。
より大規模な研究での検証が必要
高インスリン血症は発がん危険因子として知られているが、インスリン治療とがんの関連については報告によりばらつきがある。1型および2型糖尿病を対象とした観察研究のメタ解析では16件中13件で両者の関連が認められなかった一方、4件ではインスリングラルギンと乳がんの関連性が示された(Diabetes Care 2016; 39: 486-494)。しかし、いずれも1日当たりのインスリン投与量は少なく(通常0.3U/kg未満)、追跡期間中に多くの患者が一時的または永続的にインスリンを中止していた。
Zhong氏らは「今回の研究には、特定のがん種での解析を行うには症例数が少ない、1日インスリン投与量の幅が広い、残留交絡が影響している可能性があり必ずしも因果関係があるとはいえないなどの限界がある。より大規模な研究でインスリン治療とがん発生率の関連を検証する必要がある」と考察している。
(編集部)