米・Johns Hopkins University School of MedicineのRoberta Florido氏らは、大規模前向きコホート研究Atherosclerosis Risk in Communities(ARIC)Studyの参加者1万例超のデータを解析。その結果、成人がんサバイバーではがん非発症者と比べて心血管疾患(CVD)の新規発症リスクが高く、がんの既往は飲酒、喫煙、肥満などの古典的CVD危険因子とは独立してCVDリスクを高めることが示唆されたとJ Am Coll Cardiol2022; 80: 22-32)に発表した。

がんサバイバーでCVDリスク37%上昇

 解析対象はARIC Studyの参加者1万2,414例(平均年齢54歳、女性55%、黒人25%)。主要評価項目はCVD新規発症〔冠動脈性心疾患(CHD)、心不全(HF)、脳卒中の新規発症の複合〕とした。中央値で13.6年の追跡期間中のがん新規発症は3,250例(25%)だった。

 年齢調整後の1,000人・年当たりのCVD新規発症率は、がん非発症者の12.0(95%CI 11.5~12.4)に対しがんサバイバーでは23.1(同21.4~25.1)と高かった。

 年齢、性などの患者背景を調整後の解析では、CVD新規発症リスクががん非発症者に対し、がんサバイバーでは42%上昇〔ハザード比(HR)1.42、95%CI 1.30~1.56〕。さらに古典的危険因子を調整後は37%高かった(同1.37、1.26~1.50)。

 Florido氏らは「がんとCVDの間には、古典的危険因子とは独立した関連があることが示された。したがって、がんとCVDの共通危険因子にも注意する必要があるが、従来のCVDリスク評価方法では過小評価になる可能性があり、危険因子の修正のみでは不十分」と結論。「成人がんサバイバーにおいてCVDを予測・予防するには、CVDリスク上昇の背景にあるメカニズムを解明する必要がある」と述べ、全身性炎症や酸化ストレスなど共通の生理学的機序、がん自体による炎症および血栓形成促進状態、がん治療に伴う毒性がCVDリスク上昇に寄与した可能性があると指摘している。

前立腺がんではCVDリスク上昇なし

 古典的危険因子を調整後の解析で、CVDの種類別に見ると、がんサバイバーではHF(HR 1.52、95%CI 1.38~1.68)および脳卒中(同1.22、1.03~1.44)のリスクが上昇していた一方、CHDとの関連は認められなかった(同1.11、0.97~1.28)。

 がんの種類別に見ると、乳がん(HR 1.32、95%CI 1.08~1.60)、肺がん(同2.37、1.84~3.06)、大腸がん(同1.46、1.15~1.85)、血液がん/悪性リンパ腫(同2.70、2.04~3.59)とCVDリスク上昇との有意な関連が認められたが、前立腺がん(同1.10、0.92~1.32)との関連は認められなかった。

 この点について、Florido氏らは「例えば、乳がんなどの管理では一般に心毒性を有する化学療法や胸部放射線療法を併用するが、前立腺がんは心毒性リスクがない前立腺特異抗原(PSA)検査などの監視療法や局所療法で管理可能でることが影響したのではないか」と説明している。

(太田敦子)